2022年7月7日(木)

家庭医の日常

2022年3月25日

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葛西龍樹 (かっさい・りゅうき)

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座主任教授

1984年北海道大学医学部卒業。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から現職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。日本プライマリ・ケア連合学会監事。著書に『医療大転換 ─日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)など多数。

 現在のウクライナには、ウジホロドのような比較的安全な町もあるが、マリウポリやキエフのように市民の犠牲が増えて流血の絶えないところも多い。慢性疾患のコントロールが優先する地域、まず外傷の処置をしなければならない地域、うつ・不安・心的外傷後ストレス障害(PTSD)などメンタルヘルスケアが必要とされる地域、乳幼児と母親そして高齢者のケアが必須のシェルターもあるだろう。現時点でパブロは国内の70人ほどの家庭医療の指導医と連絡がとれるそうで、彼らを通して、どこにいる専攻医たちが何を学びたいのかを調べるという。

 ウクライナから難民として国外へ逃れた人たちに対しても、それぞれの避難先の国々の家庭医たちがケアの手を差し伸べる方法についても語られた。通訳の手配や医療に対する考え方の理解など、言語・文化のギャップを埋めるために必要な方略についても話が出た。

変わる危機的状況での家庭医の役割

 危機の下での世界の家庭医の働きが日本で報道されることはほとんどないが、日本の方々にもぜひこのウェビナーを視聴してもらいたい。有事であっても平時であっても、地域で暮らす人々の医療・予防・健康維持・増進のためによくトレーニングを積んだ家庭医が必須の専門職であることを理解してほしい。

 世界の家庭医たちは平時から、日本で言えば保健所と診療所をハイブリッドさせた機能を備えており、コロナ禍ではPCR検査による地域の感染状況の把握、軽症・中等症コロナ患者と自宅療養者(退院後の患者も含む)へのケアと、それを保証する標準化された教育と情報共有を進めてきている(機能が進化している)。ウクライナの家庭医からの現状報告と支援要請への反応にも、世界の家庭医たちがこれまでの危機的状況で蓄積してきた経験と科学的知見が生かされていることを今回のウェビナーで強く感じた。

 ミセスBから教わったことは、歴史の暗黒面や人生の悲惨さばかりではない。その一つが「ウクライナ・ソーセージ」の美味しさだ。各家庭に独自のレシピがあるそうで、残念ながらミセスBが作ったウクライナ・ソーセージを味わう機会は訪れなかったが、ウクライナ移民の多いバンクーバーでスーパーマーケットでも普通に売っていたウクライナ・ソーセージを使った料理は、その後の私のレジデンシー時代の重要なスタミナ源となった。

  
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