2022年12月4日(日)

WEDGE REPORT

2022年4月8日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 地下室に避難していた別の女性は、一緒にいた29歳の息子と31歳の義弟がタバコを吸いに地上に出た時にロシア兵に拉致されことを知らされた。

 近くの検問所で2人の安否を尋ねたところ、「ちょっと脅して尋問したらすぐ帰す」といわれた。しかし2人は帰らず、翌朝、近くビルの前で縛られて抵抗できない状態にして頭を撃ち抜かれた遺体でみつかった。

 こうしたリポートは枚挙にいとまがない。

 ブチャのアナトリ―・ペドルク市長らによると、同市などキーウ近郊だけで見つかった市民の遺体は400人を超えており、さらに増えるという。まさに〝悪魔の所業〟というべきだろう。

殺害は「偶発的ではなく計画的」、ICCの刑事訴追も

 ウクライナのゼレンスキー大統領は4月5日、国連安全保障理事会の会合でビデオ演説。 「大人も子供も、家族全員を殺害し遺体を焼こうとした」「ロシア軍と彼らに命令を下した者はただちに裁かれなければならない」と強くロシアを非難。あわせて、ロシアが安保理で拒否権を持つ国連の改革を訴えた。

 ブリンケン米国務長官も「殺害、拷問、性的暴行のための組織的な犯行だ」と、混乱の中での偶発的な事件ではなく、計画された戦争犯罪との見方を示した。同様の非難が日本を含む各国から相次いでいる。 

 ウクライナのクレバ外相は多くの遺体が見つかった直後の4月3日、英メディアのインタビューで、国際刑事裁判所(ICC)と関係国際機関に対し、解放された各地に調査団を派遣し、ウクライナ司法機関と協力して戦争犯罪の証拠を収集することを求めた。これに呼応して、ウクライナ国防省は、関与した疑いのあるロシア軍将兵1600人の名簿を公開、〝国際手配〟した。

 戦争犯罪として、関与した者を裁くにあたっては、訴追の強制力を持つICCの動向が焦点となる。ICC検事局は、ロシアの侵略直後の2月末から、職権で戦争犯罪に関する証拠集めを行ってきた。英独仏、日本など約40カ国が3月初めに、告発に当たる訴追の付託を行ったことを受けて、カリム・カーン主任検察官(英国出身)は捜査を開始する方針を正式に表明した。

 同検事の声明は、今回の事件が明らかになる以前に発表されたが、「捜査にはあらたな訴えも含まれる」と述べていることから、対象に追加される見込みだ。

プーチンの訴追、出廷は非現実的

 しかし、実際にプーチンを含むロシア政府高官、軍将兵をICC法廷に訴追するのは簡単ではない。

 ウクライナはICCに未加盟だが、その手続き受け入れを表明すれば、国内で起きた事件の訴追が可能になるため、そうした手段をとるとみられる。しかし、ロシアはICC加盟の取り決めを批准しておらず、プーチンを含むロシア政府高官、軍将兵が取り調べに協力して受け入れることはあり得ず、起訴にこぎつけても、法廷に出廷する可能性もほとんどない。

 ただ、ICCの訴追に時効はないため、将来の政権が受け入れた場合、起訴されることはありうる。プーチン氏が訴追を逃れ、職にとどまっていた場合でも、外遊などで加盟国を訪問すれば、ICC裁判官が発行した逮捕状によって身柄を拘束される。外国人が日本の法令に違反した場合、訴追されるのと同じ理屈だ。

 ICCの前身は、国連決議に基づいて設置された個別の国際法廷。1993年に設置された旧ユーゴ国際刑事裁判所では、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争などでの集団殺害、戦争犯罪を捜査、ユーゴスラビア(当時)のミロシェビッチ元大統領を訴追(審理途中で死去)した実績がある。

 ICCになってからも、30万人が死亡したといわれるスーダンのダルフール紛争で、当時のバシール大統領に2009年に逮捕状を発布する(国内で訴追されたた執行できず)など積極的に活動してきた。

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