プーチン、暗殺やクーデターの危険
戦争犯罪の実態が暴かれたことで、今後のウクライナ情勢はどう展開するのか。ロシアの軍事攻勢がどうなるかなど流動的な要素があるが、ウクライナの安全保障などをめぐって一定の進展を見た和平交渉に影響を与えるのは不可避だろう。当事国のウクライナ、米国をはじめとする西側各国は、ロシア非難を一段と強めており、和平協議においても、これらの問題が無視されることはあり得ないからだ。
今後の帰趨が不透明な中で、確実なことは、ウクライナを〝無力化〟して実質的に勢力下におくというプーチンの当初の目論見はもはや不可能になったということだろう。そして、プーチンの今後の政治的、個人的な立場も、かなり危うくなったということでもある。
米国のバイデン大統領はさきに、プーチンについて「この男を権力にとどめおくべきではない」と述べ、和平協議に影響を与えることを懸念する勢力から批判を浴びた。だが、いまとなっては、だれがプーチンの居座りなど望むだろう。
米国のリンゼー・グラム米上院議員(共和党、サウスカロライナ州)はことし3月3日、テレビ番組、ツイッターへの投稿で、「ロシアにはブルータス、シュタウフェンベルク大佐はいないのか」と呼びかけた。
ブルータスはいうまでもなく、古代ローマの独裁者、シーザーを暗殺した人物。シュタウフェンベルク大佐は、1944年にヒトラーを時限爆弾で殺害しようとして軽傷を負わせ、銃殺されたドイツの将校だ。グラム議員は〝暗殺〟という言葉こそ避けたが、実質的にはそれを呼びかける内容だった。
英国のオンライン新聞「London loves Business」も2月末、英国の安全保障専門家の話として、「側近によって暗殺される可能性がある」と報じた。
暗殺という違法な手段はともかく、クーデターによってプーチンを権力の座から引きずり下ろすことへの待望論も少なくない。
イギリスのジェームズ・クレバリー欧州北米担当相はウクライナ侵攻が強行された2月24日、英テレビのインタビューで、「ロシアの将軍たちは、プーチンの行動を止められる立場にある。われわれは彼らに、それを計画することを求めたい」と明確に、それを呼びかけた。
武力を持つ軍がクーデターの中心になることはミャンマーの例を引くまでもなく、過去の多くの例を見ても明らかだ。
大統領の職務遂行も困難に
プーチンがウクライナ市民の大量殺害について、指揮し命令を与えたかは明らかではないが、最高指導者たるものはすべての結果について責任を問われる。
全世界からこれほど糾弾されれば、将来とも、そのポストにとどまっておいても、各国から大国の指導者として遇されることはあり得まい。外遊に出れば、ICCからの逮捕状を執行され身柄を拘束されるというのだから、海外で首脳会談を行う機会は大幅に狭められ、大統領としての職務を遂行することはもはや事実上困難だ。
これまでなら、即座に停戦を断行してウクライナ側と和解する方策はあったかもしれない。いったん市民の集団殺害が明らかになったいまとなっては、手遅れというべきだろう。