2024年11月21日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年4月4日

 ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、デビッド・イグネイシャスが、3月17日付けの同紙に‘Watching Russia’s military failures is exhilarating. But a cornered Putin is dangerous’と題する論説を書き、プーチンの軍事的失敗を見ることは愉快かもしれないが、追い詰められたプーチンは危険だ、と述べている。

Pixabay

 イグネイシャスは、隠れたリスクとして、

① 必死になったプーチンは益々エスカレートする可能性が高く、問題解決のための妥協は苦痛を伴うが必要だ。
② コーナーに追い詰められたプーチンの脅威につき、世界の諜報機関はその力を削減する方法を考えるべきだ。
③ ウクライナ戦争は核拡散を刺激することになるかもしれない。
④ 抑制した側が抑制しない側の行動を可能にするという西側の自己抑制のパラドックスが起きており、何とか抑止のバランスを回復せねばならない。
⑤ 戦後の世界の再構築にはロシアと中国の参加が必要であり、そうしないとそれは失敗する。
⑥ 次のロシア崩壊の危険に注意しておくべき。
⑦ ウクライナ戦争はもっと破壊的な紛争のリハーサルなのかもしれない。

との見方を紹介する。いずれも重要な指摘である。

 イグネイシャスの指摘で一番注目されるのは、今回の侵略は核兵器の有益性を明確にしたとの指摘である。これは残念ながら正しい。先のミュンヘン安保会議でウクライナのゼレンスキー大統領は、1994年に核を放棄したのは間違いだったと述べた。

 核については、リビアのカダフィ政権転覆の際も指摘されたことである。北朝鮮やイランを含め中東の大国、西欧メディアの一部には韓国に言及するものもあるが、関係国は大きな関心を持って注視しているだろう。

 日本にとっては、核不拡散の努力と拡大抑止の確保が一層重要となる。ロシアが侵略早々、チェルノブイリを含む原発の確保に出たのは、エネルギー源の確保の他に、核関連施設の確保と言う軍事的狙いもあったであろう。

 「西側の自己抑制のパラドックス」についての指摘は、非常によく分かる。西側の抑制には相手にフリーハンドを与えることになる難しいジレンマがある。プーチンがエスカレーション・ドミナンスを保有していることは最初から懸念された。

 正気者の狂者に対する抑止は難しい。プーチンの侵略の前に、北大西洋条約機構(NATO)軍をウクライナの東部に予防展開するようなことをすればバランスを回復できたかもしれないが、それほど簡単なことではない。


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