仏調査会社イプソスの最新調査によると、マクロン大統領の支持率は55.5%で、ルペン候補の支持率は44.5%。別の調査会社イフォプによると、それぞれ53.5%と46.5%で、いずれも現職の大統領が10%前後の差でリードしている。
前回の決選投票(2017年)では、マクロン大統領の得票率は66%で、ルペン候補は34%に終わった。つまりこの5年間で、マクロン大統領の支持者離れが進んだのか、あるいは、ルペン候補に対する極右のイメージに変化が訪れたのか、その両者かそのいずれかであることは間違いない。
父親が築いた極右政党と異なる道を行く
そもそも、極右「国民連合」(RN)とは、どのような政党なのか。筆者は以前、欧州5カ国の極右政党の党首らを取材してきた経験がある。中でも、ルペン候補の父で、RNの前身「国民戦線」(FN)創設者のジャン=マリー・ルペン氏には2度会ったことがある。
FNは、反共産主義、植民地主義、王党派、カトリック伝統主義だ。ジャン=マリー・ルペン氏は、移民排斥を唱え、国内の失業は移民問題にあるとし、「ナシオン」(国家)の重要性を訴えた。EUやグローバル経済など、エリートによる支配を批判し、中間層からの支持を集めた。
02年には、シラク元大統領と決選投票に進むまで躍進し、欧州全体を震撼させた。戦後の欧州で、フランスのような極右政党を持った国は少なく、FNは驚異的な存在に映った。このFNの後継者が、今回で2度目の決選投票に挑む、娘のマリーヌ・ルペン候補だ。
彼女は、政党名を変えたほか、父親のジャン=マリー・ルペン氏のような過激な発言や行動を控えるようになった。女性や同性愛者に対しては、むしろ温厚なイメージを植え付けた。だが、基本的な政治信条は、父親の代から変わっていないという声もある。
ジャン=マリー・ルペン氏はかつて、娘について、筆者にこう不満を漏らしていた。
「マリーヌは戦略を間違えている。正しい戦略を行ったのはドナルド・トランプだ。彼は過激化する米世論にうまく足並みを揃えた。しかし、マリーヌはトランプと違い、敵に適応する道を選んでいる。彼女が大統領選を勝ち抜くには、40年間、揺らぐことのなかったFNの真髄を貫き、フランス政治に対抗していくことだ」
父と娘の関係は、長らく悪い。過激なイメージを払拭したかった娘は、現在、「極右の良い部分と左派の良い部分を集めることが目的だ」とまで語るようになっている。
課題が残ったマクロン政権の5年
フランスには、「自由・平等・博愛」の3大原則がある。マクロン大統領政権が発足してから、国民はこれらの原則に対し、危機感を抱き始めるようになる。理想とする社会と、国民が直面してきた現実社会との間には、大きなギャップが生まれた。
過去5年間で浮き彫りになったのが、マクロン大統領に対する不信感だ。エリート育ちで、まだ39歳だった大統領には庶民の生活が理解できないという「不平等」の風潮が発生した。燃料費を上げられた一般市民は、怒りを爆発させ、市民運動「黄色いベスト」を断続的に行ってきた。
同運動を立ち上げた創設者の一人、ジャクリーヌ・ムロ氏は、スペインの日刊紙バングアルディアに対し、「フランス第5共和政において、国民をここまで蔑んだ大統領は一人もいなかった。(マクロン大統領は)冷遇者だ」と不満をぶつけた。
その後、新型コロナウイルスが猛威を振るい、今度は国民の「自由」を無視した強引なコロナ対策が行われ、マクロン政権を非難する声が増加した。仏週刊誌ルポワンの取材に応じたパリ政治学院政治学研究センターのパスカル・ペリノー氏は、「マクロンの(国家元首であるという)ナルシズムが国民の怒りと恨みを買った」と話している。