2024年4月27日(土)

Wedge SPECIAL REPORT

2022年5月30日

失敗を恐れ
内向き志向にシフト

 企業から言わせれば「投資したくても有望な投資先が見当たらないので、とりあえず内部留保しておこう」ということが大勢になっている。しかし、内部留保をみつめながら「儲かりそうな投資先が見つからない」と言い訳をするということは、「見つけるための目利き力がない」ということにもなる。

 日本では、失敗に対して金融機関を含めて厳しい目が注がれる。一度倒産すると二度と立ち上がれなくなるほどのダメージを受けてしまう。欧米の場合は、倒産企業が何度も不死鳥のようによみがえって成長しているケースがある。金融機関も成功する可能性がある企業に対しては柔軟な対応をするケースが多い。日本の場合は、まず聞かれるのは「前例がないので、融資はできない」となる。

 みずほ銀行常務、第一勧業信用組合理事長を務めた経験を持つ、新田信行・開智国際大学客員教授は「中小企業向けは補助金と公的融資のサポート、大企業はスタートアップとの連携によるベンチャー投資が必要になる。将来は金融機関にIT業界からなど、新しいプレーヤーが多数出現して欲しい」と話す。利ザヤを稼ぐのが本業の金融業界が、利益優先の姿勢から変わることができるかどうかも課題となる。金融支援にとどまらない、事業を進めていく伴走者としての役割も求められるようになる。

 これまでの日本は、「良いモノを安く提供する」ということを得意としてきた。しかし、アジアを中心とした新興国が台頭してくる中で、日本の優位性が失われた。持続可能な開発目標(SDGs)が求められる中で、まさに「量から質へ」の転換が求められている。前述のホンダジェットの価格は、1機で5億円超だ。それでも購入者はいるし、出荷台数が増えれば、その後のメンテナンス収入も持続的に見込むことができる。

 しかし、このホンダジェットにしても一朝一夕で誕生したわけではない。自動車メーカーのエンジニアが、悪戦苦闘する時間が必要だった。経営者に求められるのは、短期志向ではなく、中長期的なグランドデザインを描き、それが実現できるまでの胆力だ。既存の成功体験にとらわれることなく、未来に向けての「種まき」こそが今の日本企業には求められている。

 経営者は、退路を断って決断と実行する覚悟が求められる。どうすればリスクを前向きにとらえて生かせるのか、プラス思考で考えるべきだ。そうしなければ、テスラやアップルのように世界をリードする企業は誕生しない。今こそ常識を一歩抜け出すときだ。そして、ソニーの『ウォークマン』やホンダの『スーパーカブ』など、日本企業が世界の人々をあっと言わせるような新しい価値を提供できる日が再びやってくることを期待したい。

 
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 日本企業の様子がおかしい。バブル崩壊以降、失敗しないことが〝経営の最優先課題〟になりつつあるかのようだ。しかし、そうこうしているうちに、かつては、追いつけ追い越せまで迫った米国の姿は遠のき、アジアをはじめとした新興国にも追い抜かれようとしている。今こそ、現状維持は最大の経営リスクと肝に銘じてチャレンジし、常識という殻を破る時だ。
 

   
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Wedge 2022年6月号より
現状維持は最大の経営リスク 常識という殻を破ろう
現状維持は最大の経営リスク 常識という殻を破ろう

日本企業の様子がおかしい。バブル崩壊以降、失敗しないことが“経営の最優先課題”になりつつあるかのようだ。しかし、そうこうしているうちに、かつては、追いつけ追い越せまで迫った米国の姿は遠のき、アジアをはじめとした新興国にも追い抜かれようとしている。今こそ、現状維持は最大の経営リスクと肝に銘じてチャレンジし、常識という殻を破る時だ。


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