前回は遠隔操作ウイルス事件を事例として、警察権力とサイバー空間の技術的問題について論じた(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/2608を参照)。事件は未だ決着がつかず、片山容疑者は2013年3月3日に処分保留で釈放されるも、同日中にハイジャック防止法違反と偽計業務妨害の疑いで再逮捕され、3月22日に起訴された。
遠隔操作ウイルスの作成には特殊な能力は必要なく、一定水準のエンジニアであれば誰でも作成可能であることは前回も述べた。他方、飛躍的な技術の進歩と比較で言えば、技術を利用した事件に対する混乱も多い。こうしたことからも、サイバー空間における「法」や「権利」の国際的整備が不十分である実情が浮かび上がった。
とはいえ、法整備がその場しのぎのものになってはならず、時間はかかっても様々な観点から練りこまれなければならないのも事実だ。なぜならば、サイバー空間の技術をめぐっては、遠隔操作ウイルスのような技術を悪用するものもあれば、技術が新たな領域を開拓し、社会への影響と人々の支持を獲得するものもある。
そして、そうした技術やその扱い方を一方的に規制することが正当かどうかという問題が、権利等の観点から考察される必要があるからだ。
今回は、情報源秘匿技術で一躍世界から注目を浴びたリークサイト「ウィキリークス」を通して、権力がもつ構造とその機能について考察したい。
企業の不正を告発
「ウィキリークス」とは
ウィキリークスは世界中の政府、企業の不正を告発し、民主主義の発展を目的として2006年、オーストリア人のジュリアン・アサンジによって創設された。数名のスタッフと数百人のボランティア、そして寄付によって成り立つウィキリークスは、リーク情報提供者のプライバシーを秘匿する技術を構築する。ウィキリークスは、世界中から寄せられた情報を精査した後に公開。2010年11月に公開した「米外交公電公開事件」は、日本を含め世界中から注目を浴びたこともあり、記憶している読者も多いと思われる。
一方、創設者のアサンジは2010年、スウェーデンで婦女暴行等の容疑で国際指名手配され、滞在中だったイギリスの警察に出頭した。当時米外交公電の公開によってアメリカ政府から強く批判されていたアサンジにとって、これらの事件はアメリカが仕組んだものではないか、あるいは少なくとも指名手配にはなんらかの政治的介入があるのではないか、といった意見が聞かれた。
彼の逮捕をめぐっては様々な憶測が飛び交ったが、最終的にアサンジはスウェーデンへの移送が決定される。しかしその直後、彼は反米左派政権の在英エクアドル大使館に亡命を求め、現在も同大使館に滞在している。