実は、電波の接続の問題でQRコードが出せない場合を想定してスクショを撮っておくのは「良い考えだ」というアドバイスは、ネットの情報として溢れている。そこで、自分の場合は既に事前にスクショを撮っておいたし、ネットの情報に従って「長い全画面のスクショ」を用意していた。その旨を申し出ると「それで結構です」という答えが返ってきた。
筆者がネットで得た情報というのは、万が一電波状態(空港のフリーWi-Fiなど)が悪くて、チェックポイントでコードが出せない場合に、スクショがあれば、柔軟にそれで「受理してもらえるかもしれない」ので保険として用意したほうがいいということだった。それも決して褒められたことではないが、担当者から「スクショを撮っておいてください」と指示されるというのは全く別次元の話で、驚愕でしかない。
この「MySOS」が使用しているのは、QRコードの中でも大きいほうである「バージョン10」だ。57セル×57セルに加えて3つの隅に位置切り出しのシンボルがついているタイプで、なかなか外見的な印象は立派だ。だが、実は中身は単純であり特別な暗号はかかっていない。従って、汎用のツールですぐに読めるし、反対にやろうと思えば改ざんも可能である。
そのようなQRコードであるから、真正性、つまり内容が「正しい」ことを認証するには、オンラインで発行者(この場合は政府)のサーバーに接続された上での表示でなくてはならない。この「MySOS」というアプリの設計として、QRコードはアプリ内では生成されず、必ずブラウザに飛ばしてWeb上でリアルタイム表示をする設計になっているのもそのためと考えられる。
しかしながら、実際の運用としては、電波状態が悪いなどの理由、肝心のスキャンするタイミングでQRコードが出なくては大変だというので、現実的な運用として「念のためスクショを撮っておいてください」という指示になっているものと思われる。DXの初歩である真正性への理解が組織として欠けているのは問題だ。
申請書は「やっぱり紙ですね」
これは検疫プロセスの後のことだが、「税関アプリ」というのもある。これは、紙の税関申告書をペーパーレス化するものだが、現場により運用はマチマチのようだ。成田空港では、6月に入って、入国者の多くがアプリを使って「サクサク」と税関を通過していたという報告もある。
その一方で、私の場合は、税関審査の担当官に「アプリも入力してあるんですが、紙の方が簡単なんですか?」と尋ねたら、その担当官からはアッサリ「やっぱり紙ですね」という指示が返ってきて、思い切り「脱力」させられた。
そんなわけで、陰性証明の方法にしても、アプリによるDXの推進にしても、利用者にとっては大きなストレスと労力であり、同時にその効果や意味が薄いことを考えると全く愉快な経験ではない。そして何よりも問題なのは、そのような「対策」に膨大な国費が投じられているということだ。
この「水際対策」だが、オミクロン感染拡大の初期においては合理性があった。新しい変異株が強毒性であるなど、最悪の可能性も想定されたからだ。だが、現在は違う。現在流行している株の毒性、感染力はほぼ解明がされている。それ以前に、日本国内にはワクチン接種者と感染経験者が形成する幅広い抗体の壁が形成され、感染数は収束に向かっている。そのような中で、いつまでも入国者への管理に労力とコストを使うのには合理性はない。