インストール義務化アプリの実態
最も大量の人員が動員されていたのは、検疫スペースに入ってからの「アプリのインストールチェック」というプロセスだった。アプリとは具体的には「COCOA」のことである。GPSとBluetootの技術を使って、陽性者との接触があった場合には検査に誘導するもので、パンデミック初期に日本では鳴り物入りで導入されたのは知っていた。また、官庁の告知などで、入国にあたっては事前にインストールしておくことを要請されるということは承知しており、自分の場合は米国のスマホ向けオンラインストアからダウンロードしておいたのだった。
この「COCOA」のインストールを確認するエリアは、担当者が数十人いて、一人一人のスマホをチェックしていた。ところが、不思議なのはインストールをチェックし、GPSの動作を確認するところまでは厳しくチェックされたのだが、肝心の「COCOA」を作動させることはなかったのである。
おかしいと思って調べてみると、実際のところ日本国内では「COCOA」はあまり利用されていないということを知った。具体的には、陽性者が出ても、そこで「陽性コード」を発番してCOCOAに登録するという手続きが煩雑なために、実際の捕捉率は10%にも満たないのだという。この事実は日本国内では結構知られていて、最初のうちは使っていたものの「バージョンアップ」をしていない人が多いなど、普及という点では失敗している。
にもかかわらず大規模な人員を投入して依然として入国者にはインストールを徹底しているとなれば、これは壮大なムダと言われても仕方がないだろう。
一方で、それなりに機能しているアプリもある。これは「MySOS」で、検疫プロセスの中で、何度も何度も「QRコードはあるか?」という確認をされたのは、この「MySOS」の生成するコードのことだ。この「MySOS」であるが、本来は、自主隔離を管理するツールであり、GPSで居所を確認したり、定期的にビデオ通話で自主隔離状態を確認するものだ。
だが、この5月の時点では検疫プロセスのデジタル化という機能に変わっていた。具体的には、日本入国前にデータを入れて、事前審査を受けるという機能になっていた。
検疫に関する4つの項目(日本の法令に従うという誓約、発熱や濃厚接触の有無など健康確認、ワクチン接種証明、陰性証明)を入力すると、審査がされる。今もそうだと思うが、6時間で審査結果が出る(実際は2時間程度で出た)ようになっていて、当時は「パス」するとステータスが「緑」に変わり、そのステータスに伴うQRコードが生成された。
その後、6月1日からは、米国から日本への入国の場合はワクチン3回接種がなくても隔離は不要となり、3項目(誓約、健康確認、陰性証明)だけで良くなったようである。また、審査をパスした後に与えられるステータスは、入国時の抗原検査に関して「免除対象国」を意味する「青」に変わっているようだが、「パス」した場合に、QRコードが生成されることは変わらない。
「スクショを撮っておいて下さい」
このQRコードに関してだが、降機後に何度も存在をチェックされたこと、しかしながらスキャンされたのは最後の1回だけだったことは最初に述べた通りだ。そのこと自体が不思議なのだが、問題なのは最初のチェックポイントである。
ここでは事前審査の「パス」を意味する「緑(現在は青)」を確認するとともに、QRコードの存在がチェックされた。だが、この最初のチェックではQRコードの存在を目視するだけであり、前述のようにスキャンはされなかった。その上で不思議なことを指示されたのである。「電波状態が悪くなるといけないので、今のうちにスクショ(スクリーンショット)を撮っておいて下さい」というのである。