確かに残酷な形で勝敗は決したとはいえ、この光景は実に清々しかった。
日本中の多くの人が号泣したことであろう。勝利後、天心は会見で「対戦が決まったときから、負けたら死のうと思っていた」と、この世紀の一戦にまさしく命がけの覚悟で臨んでいたことを明かしている。武尊同様、天心もまた全てをかけて戦い合っていた。
産業としても歴史を変えた一戦
天心対武尊をメインに据えた「THE MATCH 2022」は間違いなく日本の格闘技人気復活と新たな可能性を見出す流れを作り上げた。会場の東京ドームにはコロナ禍にもかかわらず満員となる6万人近い大観衆が詰めかけ、直前にフジテレビの地上波放送が取り止めとなったもののネット配信「ABEMA」が行ったペイ・パー・ビュー(PPV)は約50万人が購入。
ふたを開けてみれば関係者の話を総合すると、わずか1日の興行で概算値ながら約50億円の収益を上げたとみられている。運営関係者も胸を張って力説していたが、このPPVのスタイルが衰退気味と揶揄されていた日本の格闘技界にとって「新たなビジネススキーム」となることに異論はないだろう。
この一戦を最後に無敗のままキックボクシングから引退し、国際式ボクシングに転向する天心には最大級の賞賛を送るとともに次のステージでも最強の座を目指してほしいと願う。片や敗れた武尊も涙を飲んだが、リスク覚悟で決戦のリングに上がり、われわれに男の生きざまを見せつけ、格闘技の素晴らしさを教えてくれた功績は今後語り継がれていくはずだ。
個人的にK-1のカリスマはまだまだ戦えるし、国際式に転向した天心が思わず羨むほどの活躍を今後も残せると踏んでいる。ぜひ再起を目指してもらいたい。
世のビジネスパーソンの中にも天心、武尊の全てをかける〝決闘〟に心を打たれた人は数多かったに違いない。何かと暗い話題ばかりの昨今だが、明日を生き抜く活力とヒントを与えてくれた2人のキックボクサーにあらためて感謝したいと思う。