被害100兆円超、市民生活は正常化に
100兆円以上にのぼるウクライナの被害は、経済、社会インフラに対する直接的な損害6500億ドルに経済活動の停止など間接被害を加えた総計だ。656カ所にものぼる病院、1200の学校・教育機関、道路2万5000キロメートル、橋305カ所、鉄道6300キロメートル、空港12カ所が含まれる。
日本大使館員がウクライナ人関係者らから得た証言は、大きな被害にも関わらず、国民の士気、団結が依然高いことを示している。激戦地をのぞく西部や首都キーウ周辺では、市民生活が徐々に正常化しつつある。
国民のモラル、団結を示す指標であるウクライナ国家警察の犯罪発生率をみると、侵略開始以来、半減した。
避難民の帰還では、5月初めに800万人が戦火を逃れて東部、南部から中部、西部に移っていたが、下旬には713万人まで減少した。一時750万人を超えていた国外避難民は、5月下旬には510万人、なお減少が続いているとみられる。
日本は6月中旬までに1300人のウクライナ避難民を受け入れた。
日本人傭兵、大使は確認避ける
一方、ウクライナ軍の中に、米国やポーランドなどと並んで、日本からも傭兵が加わっていると伝えられることについて大使は、確認は一切避けながらも「ウクライナに滞在する邦人に対しては、直ちに退避するよう呼びかけている」と述べ、接触し、撤収するよう説得していることをうかがわせた。
松田大使ほかキーウの日本大使館員は、2月24日のロシアの侵略開始後もしばらく首都にとどまっていたが、3月初めに隣国、ポーランドに移動。ウクライナとの国境から80キロメートルのジェシュフに設置した大使館臨時事務所を拠点に、ウクライナ避難民の日本渡航の支援、国際機関や各国大使館と連携して情報収集などに当たっている。
松田大使インタビューの主な内容は次の通り
――現在の戦局をどうみるか。東部でロシアの猛攻が続いているが、ウクライナ全域でウクライナ劣勢に変化したのか。
松田大使「2月24日からの侵略に対してウクライナ軍は善戦、4月初めに首都キーウの防衛に成功、5月には第2の都市ハリキウのロシア軍を押し戻した。4月中旬から東部ドンバス地方へのロシアの本格的な攻撃が始まり、現在に至っている」
「北東部ハルキウ近郊から、ドンバスを経て南東部のヘルソンに至る約700キロメートルの長い戦線で戦闘が続いている。ドンバス地方の二つの州のうち北部のルハンスク州セヴェロドネツク市、対岸のリシチャンスク市及びその近郊で過去数週間、両軍に大きな被害が出ている」
――今後の展開は。
大使「現時点で帰趨の予測は困難だが、ストルテンベルグNATO事務総長はNATO仕様の兵器が投入されれば、ロシア軍の駆逐は可能との見方を示している。英国軍トップ、ラダキン国防参謀総長も、ロシアはドンバスで戦術的にはわずかに成功を収めているが、戦争全体としてみれば戦略的には負けているという見方を最近公表した」