この村鎮銀行は農民や農村企業に金融サービスを提供することを目的としたもので、本来ならばとても儲かる商売ではない。それでも手に入れたのは当初から不正な利用を目的としていたのだろう。
集めた金を農村とは無関係の投資に回す、グループ企業に融資するなどの乱脈経営が行われていたようだ。金融当局に提出するデータも偽装することで、これまで問題が発覚することはなかった。
と、まずこの時点で非常に懐かしい。〝違法集資〟(違法な資金集め)は中国でよくある犯罪だが、金融機関を利用したものも多かった。銀行で販売されている信託投資商品なら安全だろうと購入したら、「銀行の軒先を貸しているだけで、投資商品販売会社と銀行は無関係」といった手口もあれば、もっと大胆にニセ銀行を作って投資商品を販売するというケースも。
今回の村鎮銀行も「村鎮銀行といっても銀行は銀行、ちゃんと預金保護制度の対象ですから。それでいて、大手銀行の1.5倍の金利というお得な投資です!」といった営業トークで預金を集めていたらしいが、デジャブを感じずにはいられない。
最初はいいが、そのうち集めた金を返せなくなってしまう。こうして今年4月に取り付け騒ぎが起きた。詳細な理由については現時点では公的な発表はない。もちろんお金を引き出せなくなった預金者にも説明はない。
中国では「懐かしい」活動防止と抑圧の手法
自分たちの金を取り戻そうと、預金者たちは4月からネットでの抗議声明発表や現地での抗議デモなどを繰り返してきた。零細銀行だが、預金者は全国各地に散らばっている。「高金利の定額預金」を名目に、各種フィンテックアプリで口座開設者を募ったためだ。遠隔地に住む被害者たちも河南省を訪れては問題解決の陳情を行った。
この活動をどうにか止めようとしたのが河南省政府だ。悪徳企業家と結託しているように見えるが、一般的なパターンでは、自分たちの業績を守るために騒ぎを起こさせたくないというのが相場だろうか。コロナの接触確認アプリを悪用して、抗議者たちを「濃厚接触者のため要隔離」にするよう指示するなど、なりふり構わぬ手段をとってきた。
7月10日の抗議デモも、「謎の男たち」の暴力により中止させられた。これもまた、懐かしさを覚える手段である。
というのも、中国がいかに専制国家であるにせよ、市民に対して警察が直接暴力を振るえば問題が大きくなる。というわけで、地元のチンピラを使ったり、あるいは私服警官に襲わせたりというのは常套手段であった。
今年1月にはそうした手法を分析した『Outsourcing Repression(アウトソーシングされた抑圧)』(Lynette H. Ong著、オックスフォード大学出版)という本まで出版されているほどだ。「謎の男たち」ががっちりとした体つきであること、同じシャツを配布されていることなどから、今回は警官が動員された可能性が高い。
そして、事件後の展開もあるあるだった。警察は銀行を支配していた企業家関係者の一部を逮捕したと発表。また金融当局は預金額5万元(約100万円)以下の被害者にはただちに払い戻しを行い、それ以上の預金額のある被害者に対しても、今後返金を進めると発表した。