「預金を返せ」「預金がなければ人権もない」「野放図な権力に反対、河南省政府とマフィアとの結託に反対」
2021年7月10日、中国河南省鄭州市で1000人規模のデモが行われた。銀行に預けた金が引き出せない、いわゆる取り付け騒ぎに対する抗議活動だ。
人々は横断幕を掲げ、「ホワンチエン」(金返せ)との大合唱。すると、そこに謎の男たちが乱入。デモ参加者らはペットボトルを投げつけて抵抗したが、屈強な男たちに太刀打ちできず、次々と叩きふせられていく。怪我をして流血した者も少なくない……。
衝撃的な写真と映像もあって、このニュースは世界各国のメディアで多く報じられている。「銀行の取り付け騒ぎと暴力事件、いったい中国になにが起きているのか?」という驚きがあるわけだが、筆者のような古株のチャイナウォッチャーからすると、この事件はなんとも〝懐かしい〟のである。
2000年代後半から2010年代初頭、すなわち胡錦濤時代後半には日常茶飯事だった事件なのだ。この事件の何がありがちなのか、そしてなぜ今10年前の亡霊が甦ってきているのかを考えたい。
なぜ村鎮銀行は破綻したのか
事件の経緯については、記事「コロナ対応のはずが治安維持に使われた中国「健康コード」」で詳しく紹介している。本稿は簡単にまとめるにとどめる。
取り付け騒ぎを起こしたのは、河南省の禹州新民生村鎮銀行、上蔡恵民村鎮銀行、柘城黄淮村鎮銀行、開封新東方村鎮銀行、そして安徽省の固鎮新淮河村鎮銀行の5行である。4月ごろから「システム改修中」などを理由として、預金が引き出せなくなった。
実はこの5つの銀行はいずれも同じ経営者が実質的に支配している。新財富集団という河南省の企業グループを率いる呂奕(リュー・イー)という人物だ。炭鉱経営や不動産開発、家電販売店などの事業を手がけており、いわば「地方財閥のドン」とでも言うべき存在である。
この呂が目を付けたビジネスが銀行、しかも村鎮銀行と呼ばれる零細銀行の運営だ。取り付け騒ぎを起こした5行以外にも、26もの村鎮銀行を傘下に持っているという。ここまでの数になると、もう「(零細)銀行王」とでも呼びたくなる。