同州ではこれまで、「レイプ、近親相姦、あるいは母体の生命確保上やむを得ざる状況」を理由とした妊娠中絶が例外的に州憲法規定で認められてきた。これに対し、共和党保守派、右翼宗教団体などが、例外規定を削除する修正案を提出したため、その是非をめぐる住民投票となった。
もともと、中西部カンザスは伝統的に保守的な共和党地盤として知られてきただけに、下馬評では、地元紙報道含め、「修正案可決は濃厚」との見方が広がっていた。ところが、ふたを開けてみると、中絶の「女性の権利」を否定した先の連邦最高裁判断以来、勢いづいてきた中絶支時グループによる街頭集会、戸別訪問、TV意見広告、SNSアピールなど大がかりな草の根運動が功を奏し、最終投票では修正案が否決された。しかも、「賛成」41%に対し、「反対」59%と予想外の大差となった。
この結果、同州ではこれまで通り、特定の条件下の中絶が認められることになり、それ以来、他州においても、中絶支持運動が大きなうねりとなって広がりつつある。
中間選挙に向けた動きと新たな争点
大胆な切り口の報道で知られるニュース・ウェブサイト「Daily Beast」は早速、去る8月5日、「全面的カルチャーウォーを仕掛ければ民主党に勝算あり」とのタイトルのゲスト・コラムを掲載、以下のように論じた:
「カンザス州住民投票の予想外の結果は、今世紀に入り米国民のマジョリティーが、女性自身が自らの体に関する自治権を持つという人間としての基本的権利を認めたことを意味している。女性の人権擁護に対する支持は、州内の保守的市町村含め隅々にまで広がっており、胎児の生命はあくまで神聖なものだとする共和党キリスト教伝道派の主張を退けたものに他ならない」
「母体より胎児の生命を重視する一方で、銃砲所持規制に反対する保守層は同時に、小学校の教室に突然乱入した男の銃乱射で児童が逃げ惑い、多数の死傷者を出すという最近の痛ましい事件をTVニュースで目の当たりにした際にも、衝撃を受け、これまで信じてきたこととの自己矛盾に陥ったのである。それにもかかわらず、共和党は依然として、銃規制に反対の態度をとり続けているが、今や大多数の国民の関心は、ガソリンなど物価高騰、コロナ対策のみならず、女性の人権保護、市民の身の安全に向かっており、その点で、11月中間選挙でも、民主党が議会多数を制することを期待しているともいえよう」
「われわれは、トランプ主義にそそのかされ前回大統領選挙結果の「略奪説」をうのみにし、学校児童の安全より銃砲所持を優先し、コロナ感染の科学的根拠を一蹴し、妊娠中絶や避妊を否定し続けるという、伝統路線から逸脱した『敵対的共和党』と向き合っている。民主党はこうした事態を座視するのではなく、今こそ、好機ととらえ、全米各地で果敢に〝熱い文化戦争〟を仕掛けるべきである」
実際、民主党が文化戦争で攻勢をかける上で、共和党攻撃の材料となり得るテーマは、中絶、銃規制問題だけではない。
新たな争点として注目されつつあるのが、同性結婚問題だ。
連邦最高裁判事9人中、最右翼で知られるトーマス・クラレンス判事は最近、女性の中絶権否認判断に続いて「この際、(同性婚を含む)同性愛関連の過去のいくつかの判例も見直す必要がある」と強気の発言を行い、保守派判事が6人を占める最高裁が勢いに乗って新たな判断を下す可能性を示唆した。
しかし、同性婚問題については、2015年当時、これを禁止するフロリダ州の規定に対し最高裁が「違憲」判断を下して以来、全米50州のほとんどの州で同性婚が容認されてきたほか、各種世論調査でも、多くの共和党員を含む圧倒的多数の国民が支持表明し今日に至っている。それだけに、もし、クラレンス判事の予言通り、最高裁が新たに同性婚禁止の判断を示すことになれば、これに反発する世論が沸騰することも十分予想される。