米議会史上最悪となった右派過激集団による議事堂乱入・占拠事件。その後の真相究明でトランプ前大統領の直接関与が明確となる一方、司法面では、保守派判事が絶対多数を占める連邦最高裁が、多方面で民主主義〝侵食〟の動きを見せている。「三権分立」の存在そのものが危ぶまれている。
露骨な最高裁判事人事を乱発
去る6月24日、連邦最高裁が、憲法で保証されてきた「人工妊娠中絶」の女性の権利を半世紀ぶりに覆す判断を下したことについて、英国、フランス、カナダなどの同盟国首脳までが、従来の外交例を破り、異例ともいえる痛烈な批判を浴びせた。
内外メディアでは、「最高裁へのレクイエム(鎮魂歌)」(ニューヨーク・タイムズ紙)、「最高裁がモダン・アメリカに宣戦布告」(ワシントン・ポスト紙)、「最高裁判断は悲劇的誤り」(英BBC放送)といった酷評があいついだ。
しかし、最高裁の動向については、今回の中絶問題にとどまらず、定員9人のうち保守判事が6人を占め絶対的〝共和党シフト〟が定着したトランプ前政権当時からすでに、厳しい視線が一斉に注がれ始めていた。
しかも、この〝共和党シフト〟は、最高裁判事の人事承認権を握る上院共和党の、非道ともいえる策謀を抜きにしては論じられない。
その経過は、以下のようなものだった。
トランプ政権前のオバマ政権当時(2009~17年)、最高裁判事9人の政治的色分けは、民主党系4人、共和党系5人で、僅差で保守系が多数を占めていた。しかし、「集会の自由」をめぐる審理で、共和党系とみられた判事がリベラル派の立場を支持するなど、案件によっては、流動的で、判決内容も全体としては、比較的バランスの取れたものだった。トップの座にあるジョン・ロバーツ長官自身も、保守系ながら民主党路線に近い判断に最終的に与することも珍しくなかった。
ところが、16年3月、保守系のアントニン・スカリア判事死去にともなう後任候補の上院承認審議段階から、多数を制する共和党の暴挙が始まった。