2023年1月28日(土)

バイデンのアメリカ

2022年7月12日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 オバマ大統領(当時)は、後任としてハト派のメリック・ガーランド(現司法長官)を直ちに指名したが、多数を占める共和党上院のトップ、ミッチ・マコーネル院内総務が承認審議を拒否し続けたのだ。拒否の理由は表向き、「11月の大統領選、議会選挙を控えており、時期的に後任判事の適否を論議するのにふさわしくない」というものだった。

 その結果、これまでの慣例を破り、ガーランド氏の承認はその後、10カ月以上も棚ざらしにされた挙句、選挙後の翌17年1月、オバマ氏の後継として登場したトランプ大統領に新たに指名された超保守派のニール・ゴーサッチ氏が、上院共和党多数の議決で承認され、新たに最高裁判事となった。

 さらに、暴挙は続いた。

 18年6月、穏健保守派のアンソニー・ケネディ判事が引退声明を発表すると、トランプ大統領は、強硬保守派のブレット・カバノー氏を後任に指名。その直後から、同氏の大学生時代の何件ものセクハラ事件が暴露され、上院承認公聴会では適否をめぐり、全米注視の中で白熱した論議となったが、最終的に共和党多数の支持で承認された。

 続いて20年9月には、民主党系リベラル派の女性論客で知られたルース・ギンズバーグ判事が死去すると、トランプ大統領は間髪入れず、お気に入りのエイミー・バレット女史を後任に指名した。しかも、同年に大統領選、議会選挙をわずか2カ月後に控えているにもかかわらず、共和党多数の上院は指名1カ月後には、超スピードで承認審議に踏み切り、バレット女史の最高裁判事就任の手続きを終えた。

 この間、民主党議員団からは、マコーネル院内総務に対し、ガーランド判事承認審議を「政治スケジュールとの関連」を理由に無期延期したこととの整合性についてごうごうたる非難が集まったが、同総務は一切無視し続け、バレット女史承認審議を強行した。

 一方、22年4月には、民主党系のスティーブン・ブライヤー判事引退に伴い、バイデン大統領が指名した黒人のケンタジ・ブラウン・ジャクソン女史が、20年以来の民主党主導となった上院審議で承認された。

 しかしこの結果、最高裁判事の政治的色分けは、共和党系6人に対し、民主党系はブラウン判事含め3人だけとなり、ここに、かつてない保守系共和党の絶対的支配体制が確立されたのである。

 それまでは、露骨な党派性が前面に出ることもなく、9人の判事による意外性のある判決もしばしばだったが、トランプ政権下でホワイトハウスと共和党議会が結託した強引な判事人事攻勢以来、最高裁の景色は、まるで一変してしまった。

世論を無視する判決の数々

 そこから導き出されたひとつの結果が、永年、女性に認められてきた「妊娠中絶」選択権の最高裁における否決だった。「否決6対支持3」の票決結果は、構成判事の色分けをそのまま反映させたものだった。

 この最高裁判断について、CNNテレビが実施した世論調査では、国民の59%が「反対」、「賛成」は41%にとどまった。最高裁は国民多数の意思を無視した。

 しかし、最高裁における〝数の横暴〟ぶりは、それだけにとどまらなかった。

 中絶権否定の判断が出される前日にも、最高裁は、一般市民の銃砲所持を厳しく規制してきたニューヨーク州法について「違憲」判断を下した。ここでも、保守系判事6人全員が一致して「違憲」に同調したのに対し、異議を唱えたのは、民主党系の3人のみだった。

 たまたま、米国では、この判断に先立つ過去1カ月の間に、小学校、スーパーマーケット、医療センターなど各州で痛ましい銃乱射事件が相次ぎ、多数の犠牲者が出ていたため、これまで野放し状態だった銃砲所持の規制強化を求める声が全国的に盛り上がりつつあった。しかし、最高裁はこうした世論を意に介さなかった。

 この「違憲」判断結果について、世論調査で定評のあるマンモス大学が実施した調査結果によると、国民の56%が銃砲所持の「規制強化」を支持したのに対し、「規制反対」は42%という結果だった。またも、最高裁は、公論に耳をふさいだ。


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