2022年12月7日(水)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2022年8月28日

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佐々木周作 (ささき・しゅうさく)

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授

大阪大学感染症総合教育研究拠点特任准教授。博士(経済学、大阪大学)。専門は行動経済学・実験経済学。三菱東京UFJ銀行・京都大学特定講師、東北学院大学経済学部准教授を経て現職。一般向け書籍に『今日から使える行動経済学』(ナツメ社)等がある。

[著書]

北村さん:「専用アプリで1週間ごとの短いスパンで運動目標が設定され、達成すると必ずインセンティブが受け取れる」という工夫が有効に機能していると感じています。

 行動経済学のやるべきことを先延ばししがちだという知見と、その対策としてゴールを細かく設定することが有効であるという知見を踏まえた工夫です。

佐々木先生:私も健康アプリのユーザーに対して実験研究をすることがあるのですが、もともと健康意識が高くて支援の必要がないような人ほどヘビーユーザーになって、支援が必要な人はあまりアプリを見てくれないなど、私たちが働きかけたい対象とアクティブな利用者が一致しないことがあります。

 いろんな層に積極的な利用を促すため、どのような工夫をされていますか?

北村さん:営業職員による対面販売のチャネルを生かして、アプリのログイン方法やデバイスの接続方法などを対面で丁寧に説明することで、操作に不慣れな加入者にも寄り添うことができています。

前田さん:たとえ1週間の運動目標でも、しっかりとしたインセンティブを提供することを心掛けています。加入当初に頑張って取り組んで手に入れた特典が魅力的でないと、その後も頑張ろうという気持ちが失せてしまいます。また、くじ引きのように「獲得できる〝人がいる〟」というものだと、外れた人の心がくじけてしまいます。

 「短期間でも頑張れば、魅力的な特典が必ずもらえる、だから続けて頑張ろう」と思ってもらえるよう、パートナー企業の協力を得ながら、特典を設定しています。

佐々木先生:その工夫が加入者のアクティブ度を高めているんでしょうね。

 行動経済学のナッジというと、お金を一切使わない工夫だと勘違いされることがよくあります。でも、ナッジの提唱者は、ナッジと金銭的インセンティブはお互いに補い合う関係にあると説明しています。Vitalityも、両方をうまく組み合わせていますね。

前田さん:Vitalityでは、年齢に応じたVitalityポイントの獲得基準を設定しているところも特徴です。年齢を重ねると周りの環境や本人の状態も変わるので、加入者の理想や目標も変わっていくはずです。

佐々木先生:加入期間が長くなると、健康改善を目指して運動を頑張っていた人が、健康維持を目指してほどほどに頑張る、というように切り替わっていくでしょうね。その切り替えを、行動経済学やナッジでうまくサポートできるなら私もうれしいです。

  ひとくちメモ       
「ナッジと金銭的インセンティブ」
 ナッジの提唱者であるセイラーとサンスティーンによれば、もともと存在していた金銭的インセンティブの説明表現を工夫するものなどはナッジに含まれる。金銭的インセンティブが想定通りの効果を持つように、その顕著性(目立ちやすさ)を調整する役割をナッジが担っている、と彼らは説明している。
※筆者の連載「社会の『困った』に寄り添う行動経済学」は、WEB版で詳しくご覧いただけます
 
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