2024年7月16日(火)

日本の漁業は崖っぷち

2013年5月2日

 実際に資源が回復したかといえば図からも分かるように、かつて1960年代には2万トン前後水揚げされていたものが、近年は3,000トン前後の水揚げとなっています。本当の回復というのは、諸外国の例を見ると、資源量がもっと増えて、せめて1万トン位の水揚げを持続的にできるようになって始めて言えるのかも知れません。世界の資源回復の成功例が漁業者にきちんと知らされていれば、資源回復の重要性、「儲かる漁業」への転換など、今までの認識を変えることができたでしょう。ご子息も漁業に将来性を感じ、後を継がれる可能性があったのかも知れません。

悲鳴をあげる漁業者
分かっていても止められない乱獲

 ハタハタは一例に過ぎませんが、前述の本で紹介された全国13人の方々の漁業者の話は、共通した話題が実に多く出てきます。「乱獲」「獲りすぎ」「資源枯渇」「何年もつか」「若い人は気の毒」、「後継者がいない」といったことばが、頻繁に出てきます。登場した方々のコメントには以下のようなものがあります。

 「漁獲量が落ちるのは当然です。卵を産んで魚が成長するよりも、人間の技術の方が上、魚は毎年減少傾向になるわけ(沖縄)」、「日本中魚が減っているのかなあ。やっぱり獲りすぎでしょうか(福岡)」、「小さなイカを釣っても捨てないといけないので、罪の意識を感じます(対馬・イカ)」、「魚が減った原因は乱獲です(瀬戸内)」、「資源は減ってきているね。魚体も今年は特に小さい。秋に網漁をして稚魚を網で獲ってしまっている(土佐・カツオ)、「魚は減っている。やっぱり乱獲、それから沿岸の汚染(石川県)」、「獲る人は獲らねばならないのだから、自分では制限が難しい。獲らせるほうがもっと指導をしなければ。小さいサンマは捨ててきた。なぜそういう乱獲をさせるのか、獲る人より獲らせる方がしっかりしないからだと思う(岩手・サンマ)」

 漁業が衰退していくパターンは、だいたい日本中どこでも同じです。 「はじめの内は魚が多いので、魚は獲れる。そしてもっと獲るために漁具が進化していく。漁業者はどんどん投資してもっと魚を獲ろうとする」。ここまでは、右肩上がりで成長が続きます。

 そして今度は、「資源が減り始めて、魚が小さくなり価値が低い魚が増える。卵を産める大きさに成長していない魚でも、獲り続けるため水揚げ数量は減少し、水揚げ金額も減少して行き、そして「獲れない、売れない、安い」という最悪の状態に陥ります。最後は、後継者がないという状態になるのです」。残念なことに北海道~九州まで全国で、様々な魚種や漁場で同じ過ちが繰り返されているのではないかと危惧します。

 漁業者は、長年にわたり悲鳴を上げていたのです。誰かにこの乱獲を止めて欲しいと。しかし、自分としては分かっていても止められない。行政が規制をしようとすれば、目の前の生活のことを考えて猛反対してしまう。しかし、現在のやり方が如何に良くないのかは自分たちが一番よく分かっているのです。後継者がいない理由もよくわかっているのです。

「百聞は一見にしかず」 海外の成功例を参考に

 この状況を打破するためには「百聞は一見にしかず」で、先入観なしでノルウェーを始めとする海外での成功例を見て、良い点を取り入れれば、明るい未来が見えてくるはずです。しかし残念ながら日本の水産業はガラパゴス化してしまっており、世界の趨勢とは違う方向に向かってしまっていることは、前述の数字にもはっきりと出ています。

 世界で真に成功している国々の実態を見たり、聞いたりして、それに気づいた多くの方々が発信を続けることで、多くの国民が政策の誤りに気がつき、世論を変えることで、日本の水産業は復活できるのです。すでに、多くの方々がこの問題に気がつき始めています。

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