2024年11月21日(木)

日本の漁業は崖っぷち

2013年5月2日

「食えない仕事を継がせる親はいない」

 北海道から九州にかけて13人の漁師の話をまとめた『聞き書き にっぽんの漁師』という本があります。2001年の出版なので、ノルウェー式の個別割当てによる成功の話を始めとする、資源管理の重要性に関する話題が出始める前に出版された本です。著者の塩野米松さんは、13人の聞き書きを終わって、並べてみたときに背筋が寒くなる日本の現実が浮かんできたといっています。

 聞いた方の全員が声をそろえて言っていたことは「今の人は大変だな。昔は良かった」ということでした。会った方のほとんどは後継者を持っていませんでした。その訳を聞いたところ、答えは皆同じで「漁業では食べて行けなくなった。食えない仕事を継がせる親はいない」。資源さえ安定していれば、すぐそばに海があって仕事ができるのに、漁師がいなくなっているのです。

 随所に数多く出てくるキーワードがあります。それは「乱獲」という言葉です。漁業者の方々は、認めたくはないものの、原因が第一に乱獲にあったことを本当は分かっていたのです。漁具や漁船が進化して行けば、獲れる量が多くなります。資源がある内は、魚が獲れて幸せです。水産業も発展します。

 しかしながら、この幸せな状態は、決して長続きしません。漁獲能力が、魚が増えていく速度を超えてしまった時点で、水産業のあらゆるバランスが水産資源の減少傾向とともに崩れていくのです。獲れる魚の量が減れば、さらに無理に獲ろうとして、魚が卵を産める大きさに成長する前に獲りつくしてしまいます。

 こんなことをすれば、魚がいなくなって自分たちに跳ね返って来ることを漁業者は知っているのです。しかし、その責任の所在を、環境など自分たち以外のせいにすることによって、原因が曖昧になり、魚を無作為に獲りすぎた加害者(=漁業者)が被害者に入れ替わってしまうのです。

 しかし実は、有効な資源管理の政策を行わなかった為政者が本当の加害者であり、漁業者は加害者である一方で、犠牲者でもあります。水産資源を持続的に利用できる自主管理が、日本全体の水揚げに占める割合はほんの僅かに過ぎません。日本では、漁業者・学者・行政・流通業者が一体になって科学的な資源管理に取り組んでいる先進的な例が、新潟の甘エビで、2011年から知事からのトップダウンで実施されています。しかしこれは例外に過ぎません。取るべき施策に早く気付き、これと同様の試みが全国に広がっていくことを強く望みます。


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