2024年4月20日(土)

研究と本とわたし

2013年5月2日

 それに最初は研究者を志す強い意志や決意があったわけではありませんでした。大学学部時代の指導教官は、縄文時代などの人骨や歯を中心に研究されている方でしたが、その研究室を選んだのは、化石や骨が特に好きだったわけではなく、他の選択肢である遺伝子や猿の行動研究を除いた結果で、大学院進学も成り行きのようなものでした。

 ちなみに、修士課程入試の合否がわかる夜、私は来日していた海外のピアニストのリサイタルへ行っていました。家で結果について不安に思うよりも好きなピアニストの演奏を聴きに行きたかった。指導教官は私のアパートに電話をして合格を早く知らせてくれようとして下さったのですが、何度かけても出ない。翌日大学に顔を出した私に、「いったいどこに行っていたんだ」と半ばあきれられたのを覚えています(笑)。

――そこから、現在の研究につながる転機のようなものがあったのでしょうか?

内田氏:修士課程のときに、カナダで行われた国際学会に研究室の先輩達とともに参加したのが大きかったです。

 実は、子ども時代の読書のなかで、繰り返し読んでいた本が『赤毛のアン』(モンゴメリ著・新潮文庫等)と、そのシリーズ。そんなわけで学会への参加を利用して、プリンス・エドワード島に行くというのが、旅の隠れた目的だったのです。会議を抜け出して(笑)、一人でその目的を果たしたのですが、その帰りにボストンにも寄り、ハーバード大学を見学したのが、修士課程修了後の留学先を決めるきっかけになりました。

 その頃には、やはり総合的な人類学を本格的に学ぶために、海外留学したいという気持ちが強くなっていました。ハーバード大学には人類進化や進化生物学研究の世界的権威とされるような優れた研究者がたくさんいらっしゃるということを知ったのです。

 例えば、ある先生は古人類学が専門領域だけれども、遺伝学のことにも造詣が深いし、哲学的な文章も書いている。こういう先生のいる環境で学びたいと思って、最初は研究生からとアプローチをしたところ幸いにも受け入れてもらえ、後にPh.D.課程へ編入し結局9年間にわたり院生とポスドクの研究員としてハーバードで過ごしました。

――研究に関わる本との出会いのようなものがあれば教えてください。

内田氏:やはりハーバード大学時代ですが、留学してまず読めと言われたのが、ダーウィンの『種の起源』(原題:On the Origin of Species 1859年刊、英国)です。なぜ人類学をやるのに「種の起源」なのか、最初はピンと来ませんでした。でも、これを読んだり関連する講義を聴いたりしているうちに、進化という概念が、人間を含めた生物のありようを理解する上で、いかに重要であるかに気づかされたのです。


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