2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年9月26日

 2022年9月8日付の英Economist誌は、「欧州はエネルギー危機にどのように対処すべきか」と題し、エネルギー小売価格の凍結は正しい手法ではないと論じている。

Torsten Asmus / GO Akara / iStock / Getty Images Plus

 9月5日、ロシアは、西側の対露制裁が続く限りノルド・ストリームを閉鎖すると述べた。これに伴いガス価格は更に30%上昇した。欧州の電力価格は、限界的な発電事業者(ガス発電の場合が多い)のコストによって決まるために、ガス価格の急騰は電力高騰となる。

 政府の対応は資金援助と介入である。ドイツは家計と企業の基本的電気料金の凍結を含む諸措置を講ずる。トラス英新首相は家計のエネルギー料金の2年間の凍結を発表した。

 欧州連合(EU)は電力事業者の利益に上限を設けることを検討している。仏英両国が採用したエネルギー小売価格の凍結は魅力的に映る。かつインフレを低下させるので中央銀行に対する金利引き上げの圧力を緩和する。

 しかし、欠点もある。価格の上限が課せられると、エネルギーに対する需要は大きいままになる。既に、価格上昇の故に、ドイツのガス消費量は一年前に比べて今年前半は10%少なかった。また、一旦価格を凍結すると終了させることは政治的に難しくなる。

 より良い方法がある。政府は家計のエネルギー料金に対して一時払いのリベートを提供すべきである。これにより、エネルギーの使用を抑制するインセンティブが働く。最も貧困な家計は、他の福祉給付で補えば良い。

 電力企業の倒産を避けるためには、一時的な国の保証が必要だろう。コストは追って課徴金で回収出来る。従って、リベートと一時的な融資が経済を助ける方途である。

 しかし、政府は一体どうやってその莫大な資金を手当てするのか。イタリアとドイツは国内総生産(GDP)比2~3%を投入済みである。英国の負担はその2倍になる予定である。これを更なる借り入れで賄おうとすれば、政府の債務の利払いは高くつく。

 それ故、一部の電力事業者(再生エネルギーや原発)の超過利潤に対する課税が検討されねばならない。

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 ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーの高騰は、欧州の生き残りがかかる大変な危機である。欧州には、これに耐えて、この冬を乗り切る以外の選択はない。

 EUは冬に備えて在庫を積み増すこととして来たが、10月末までに貯蔵能力の80%の在庫を達成するとの目標は既に超えて83%を達成している。EUが急速に在庫を積み増す様子を見て、ロシアはこのままではガスで欧州を攪乱する手段が失われると考え、ノルド・ストリームの無期限停止を決めたに違いない。


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