2024年2月26日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年9月28日

 上記の論説が指摘するように、トラスの政治的将来は短期間に決せられることになるであろう。次の総選挙までの時間も余りない。

エネルギー、外交とすでに課題は山積

 9月8日、トラスは最も切迫するエネルギー価格の問題について緊急措置の概要を議会で説明した。これによれば、平均的家計の年間の電気・ガス料金は現行の1971ポンドが10月から3549ポンドに急騰することになっていたが、これを政府介入により2500ポンドに今後2年間凍結する――これに加えて、すべての家計に対する前政権が公表済みの400ポンドの光熱費補助を維持し、グリーン課徴金を停止することによって、家計の負担額は現行の水準に近いものになるとされている。ビジネスに対しても当面6カ月間同等の措置を講ずるとされているが、詳細は未定のようである。

 以上に要する予算は1500億ポンドの巨額に上るらしいが、それは概ね借り入れによって賄われる――トラスはエネルギー企業の超過利潤への課税はしないと言っている。電気・ガス料金の凍結は大きな財政上のリスクを伴う――公的債務は現在国内総生産(GDP)比96%であるが、国民保険料を削減し、法人税の増税を取り止め、国防予算を増強することが予定されているから猶更である。しかし、緊急事態であり、トラスにはスタートダッシュが必要な状況でもあるので、迅速に行動したことは政治的に賢明だったと思われる。

 より大きな課題は経済の活性化である。減税と規制緩和と欧州連合(EU)叩きでは成長の加速化やいわゆる「赤の壁の選挙区」の地域経済の底上げが出来るとも思われない。彼女が合理的な政策を受け入れる柔軟性を持ち合わせているかが試されることとなろう――トラス政権発足初日の9月6日、財務次官が解任されたが、政権は減税による成長という理論に従順な後任を探すことになろうとメディアは報じている。

 外交について懸念があるのはEUとの関係である。選挙戦の討論会で、マクロンは「友人か敵か」と問われて、トラスは「評決は出ていない」「首相になったら言葉ではなく行動で彼を判断する」と外交的ではない応答をした。

 彼女には英仏海峡を渡って来る難民の問題、英仏海峡におけるフランスとの漁業紛争が特に念頭にあったに違いない。彼女が真っ先に電話したのはゼレンスキーとバイデンである。その後、ショルツとマクロンとも電話で話した。ショルツとの電話で彼女は「北アイルランド議定書の現行のテキストの基本的問題について解決を見出すことの重要性を強調した」とされているが、好ましい兆候ではない。

 彼女はジョンソンの国際約束を軽視する行動に決別するのか? 選挙戦で味方にしたBrexit強硬派との関係を巧く処理出来るのか? この問題で彼女の柔軟性の真偽が問われることとなろう。

   
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