2022年12月6日(火)

家庭医の日常

2022年9月23日

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葛西龍樹 (かっさい・りゅうき)

福島県立医科大学 医学部 地域・家庭医療学講座主任教授

1984年北海道大学医学部卒業。北海道家庭医療学センター設立および所長を経て、2006年から現職。英国家庭医学会 最高名誉正会員・専門医(FRCGP)。日本プライマリ・ケア連合学会監事。著書に『医療大転換 ─日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)など多数。

マスク着用の現状

 エリザベス女王の国葬のニュース映像などで見ている方々も多いと思うが、ロンドンではマスクをしている人はほとんど見かけない。私が訪れた3カ月前もほぼ同じ状況だった。

 ロンドンだけではなくて、ヨーロッパの多くの都市でも同じような状況だという。地下鉄など公共交通機関の車内でも、マスクをしている人はほとんどいない。

 「それは新型コロナウイルス感染者(COVID-19)が少ないから」と思われるかもしれない。しかし事実は逆で、英国のNPO法人Global Change Data Labとオックスフォード大学の研究者たちとの共同プロジェクトで運営する統計データ提供サービス『Our World in Data』のデータで日英の比較をしてみると、2022年6月末のCOVID-19新規感染者数(7日間合計の1日平均)は、日本が1万7471人、英国が2万1770人だった。COVID-19による1日の死亡者数(人口百万人あたり)は、日本が0.22人、英国が1.07人だった。だから、英国では日本よりも感染者が多く死亡者はさらに多い「にもかかわらず」のマスク不使用なのである。

 WONCAは世界保健機関(WHO)とさまざまな連携プロジェクトを展開しているが、あるWHOの公衆衛生専門家は、WHOでは依然としてマスク、手洗い、ソーシャルディスタンシングを推奨していると説明しつつ、これはひとえに「マスク疲れ」のせいなのだと言って、現在のヨーロッパでのマスクの使用が減少していることを憂慮していた。COVID-19パンデミックでのあらゆる生活の制限と規制に人々が疲れてしまったというのだ。国の方でも、国民にさらに負担を強いる政策の継続はやりにくくなり、その優先度は相対的に低くなってしまった。

 ロンドンの学会会場でも、たまに見かけるマスク姿の人は、明らかに海外からの参加者と思われる人たちだけだ。だが、そういう人たちでも、学会期間中、午前と午後に1回ずつ設定されているコーヒー(ティー)ブレイクと昼食時にはマスクを外しており、久しぶりに対面で人とディスカッションできる機会とあって、(口角泡を飛ばさないまでも)マスクなしで盛んにおしゃべりしている。

フェイスシールドのすゝめ

 では私はどう対処していたかというと、フェイスシールドである。

 学会の各セッション中はマスクのみを使用していた(このロンドンWONCAの参加案内には「マスクの使用は自由で、マスク着用者にも理解を」と明記されていたのはありがたい)が、周りに人がいる状況で飲食する時には(口を使わなくてはならないのでもちろん)マスクは外す。ただ、それではあまりに無防備である。そこで、フェイスシールドで顔面全体を覆うのだ。

 多少トレーニングは必要だが、コロナ禍も3年目になると、かなり熟練してきて、フェイスシールドをしたままでも大抵のものは飲食できるようになっている。箸が最も便利だが、スプーンもフォークも、フェイスシールドを下からくぐらせて口に運ぶ。コーヒーカップもワイングラスもフェイスシールドと顔の間に保持しつつ美味しく飲める。

 飲むときに首を後方に曲げる(後屈と呼ぶ)のがコツである。事情を説明してフェイスシールド使用の許可を尋ねて断られたり、嫌な顔をされたりしたことはない。

 もちろん、国内外問わず多くの人が集まる駅や空港では飲食に関係なくフェイスシールドをするし、飛行機の機内では飲食中はフェイスシールド、それ以外の時間帯はマスクを使用する。

 実際に、インドでCOVID-19感染者が多い地域住民の訪問ケアに従事する人たちを対象とした研究で、マスクなど他の感染防護に加えてフェイスシールドを使用することが感染防止に役立っていることを示すエビデンスもあるのだ。

 こうしたことから私は、日本でも、特に飲食店でのフェイスシールドの使用が増えるだけで、相当数の感染が予防できるものと予想している。飲食店のロゴマークがついたフェイスシールドが出回れば広告にもなるし、感染予防に積極的な企業として高い評価もされるようになるだろう。ぜひ広まってほしい。

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