9月21日にプーチンが出した30万人の予備役の部分的動員命令は、ロシア社会にパニックと数多くの抗議活動を呼び起こしている。
フィナンシャル・タイムズ紙モスクワ支局長のMax Seddonらは、9月23日付で‘Everyone will get snatched off the street’: mobilisation brings Ukraine war home to Russians’(誰でも街頭から連れさられ得る。動員はウクライナ戦争をロシア人の家に持ってきた。戦争に送られることに直面した予備役は国境外に出る道を必死に探している)と題する解説記事を書いている。主要点は、次の通り。
・9月21日の動員発表はロシア人のなかで広範なパニックと散発的抗議を引き起こした。これは、戦いが日常生活から遠く離れている限り、国民は侵攻を支持するという暗黙の社会契約を壊した。
・ロシアの諸都市からの航空便チケットは売り切れになり、ロシアの陸上国境では車の長い行列ができている。人権弁護士は徴兵を恐れる人から数多く助けを求められている。
・クレムリンは、動員は「部分的」と主張しているが、弁護士などは、大統領の命令の文言は漠然としており、当局は徴集の動きを増やしうると言う。
・ロシアのより貧しい僻地では、軍当局は経歴にかかわらず徴集を始めたと言う。戦闘経験があるか、軍にいたかは関係がなく、徴集状は誰にも来ている由である。
・ロシアの諸都市で行われた9月21日の抗議デモで、1000人以上が拘束された。抗議者は軍侮辱罪で15年までの禁固刑に処せられる上に、逮捕者の一部には徴兵令状も警察から渡されたという。
・ペシュコフ大統領府報道官は、徴兵逃れのためにロシア人が大量に国外に逃亡しているとの報道は非常に誇張されていると述べ、警察には徴兵令状を渡す権利があると述べた。
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上記のフィナンシャル・タイムズの記事のほかに、ワシントン・ポスト紙は「ロシアの動員が少数民族地域と抗議者を対象とする中、怒りが燃え上がっている」との解説記事を、ニューヨーク・タイムズ紙は「大量のパニック。ウクライナ徴兵を恐れて、ロシアの男は外国に避難しようとしている」との記事を掲載している。
プーチンは、ウクライナ戦争は職業軍人がやっていると言ってきた。これは徴兵軍人もウクライナに行っていることが明らかになっているので虚偽であるが、総動員令を出せばロシア国民が反発すると考えていた。しかし、ハルキウでの敗北、兵員の消耗を踏まえ、兵員の補充は不可欠になり、ここにきて軍の意向を踏まえ「部分動員」に踏み切ったと思われる。ロシア国内での反発は力で抑え込めると考えているのであろう。
今回のロシア国民の反応を見ると、ロシア人の多くは、ウクライナ戦争は兄弟同士の戦争のようなもので、戦争目的も理解できないと考えていることが明らかである。要するに大義なき戦争で、それに命を懸けることは嫌だと思っている。