実際に米空母を追い払うことができたか否かは不明であるが、台湾有事を想定した中国の軍事能力が大幅に向上していることは間違いない。今回の演習で中国軍は、台湾本島を大規模かつ精密に攻撃できる能力や、周辺地域を軍事的に支配して台湾を封鎖する能力などを示した。こうした能力の向上は、「世界一流の軍隊」の建設を掲げて習近平総書記が推進してきた軍改革の成果として喧伝されており、本稿執筆時点で10月半ばに開催が予定されている第20回党大会でも、習氏が引退せずにトップにとどまり続けることを正当化する理由として大いに活用されることになるだろう。
演習の背後に見える
習近平政権の苦境
今回の軍事演習において、見逃してはならない点がある。今回中国は、ペロシ氏が議員団を率いて台湾を訪問したことに対抗して大規模な軍事演習を行ったとしているが、ペロシ氏の台湾訪問はもともと4月に予定されていたものである。議員団は日本と台湾を訪問する予定であったが、ペロシ氏が新型コロナウイルスに感染したために、直前になって延期されていた。4月にペロシ氏が台湾訪問を計画していることは公表されていたが、この際、中国は強く反発する姿勢や、対抗して軍事演習を行う素振りさえ見せなかったのである。
そもそも米国の国会議員による台湾訪問は頻繁に行われているものであり、下院議長の訪台にも前例がある。それにも拘らず習近平指導部は、4カ月間で態度を一変させて、8月のペロシ氏の訪台を機に大規模な軍事演習の実施に踏み切ったのである。
その背景の一つとして指摘できることは、……
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