ところが、2012年からの習近平の在任中、台湾問題は前進どころか、後退の一途をたどっていることを自らも党内の人々もよく知っている。「前進した」「主導権を握った」と言葉の上では取り繕っているが、サブスタンスはなにもない。
そのため、どこかでなんらかの挽回を見せなければならない。当然の思考として、習近平は台湾問題の解決について、次の5年間、あるいはその次の5年間の任期のなかで、大きく優先度を上げていくだろう。
党大会人事で見えた「台湾シフト」
そのなかで注目されるのは、自らの腹心や福建省での仕事を通してつながったとみられる人々が、今回の党大会人事で台湾と絡んで重用されているところだ。
中国共産党中央対台工作領導小組は、共産党が指導する中国における台湾政策の最高意思決定機関だ。そのトップは習近平であるが、そのナンバーツーにあたる副組長は汪洋副首相が担当していた。汪洋が中央委員からも外れたため、そこには習近平のブレーン中のブレーンである王滬寧が就任すると目されている。
そして、今回、68歳ながら政治局員の24人の1人になった王毅外相が、同小組の秘書長に就く可能性がある。台湾問題を「米中関係で最も重要な問題」と中国側は言い続ける。王毅は外相として米国と渡り合ってきたうえ、日本語も堪能で日本でも大使としての駐在歴もある。しかも、中国政府で台湾問題を司る国務院台湾事務弁公室のトップを務めていた。
米国、日本、台湾を知悉するという意味では、台湾問題の担当にうってつけの人材ではある。一方、王毅が近年「戦狼外交」を担って強硬な姿勢を表明することが多かった。かつてのソフトで品のある王毅はもはや別人になったと考えたほういいだろう。これらの人事は来年の全人代行で最終確定するものだが、これまでの10年の任期中に台湾政策を担った顔ぶれはほとんど一新されるとみられる。
一方、軍関係の人事はもっと明瞭に台湾シフトを打ち出している。新しく共産党中央軍事委員会副主席になった何衛東は、2022年はじめまで、台湾との最前線を担当する人民解放軍東部戦区の司令官を務めていた。今回の台湾に対する8月の軍事演習で、実際に指揮をとった人物とも台湾メディアは伝えている。
何衛東はもともと地方の軍幹部に過ぎなかったが、2010年代半ばから突然急激な出世を遂げた。かつて習近平氏の福建省勤務時代に接点があったとも言われ、台湾メディアは習近平氏の引きによる「三段跳び」での出世を遂げたと報じている。