2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年11月9日

 また、これに対応する上で、インド・太平洋地域以上に米国にとって重要な地域は無いと明言し、同地域への関与を再保証したことには勇気づけられる。モハンの論説では、前者(対中強硬路線の継続)は米中対立長期化を意味しアジア諸国にとっては悪いニュースだと位置づけけられているが、これは、モハン自身が良いニュースと位置付ける後者(インド・太平洋地域への関与の保証)とセットで考えるべきものであり(前者の認識があるからこそ後者の保証が出てくる)、中国のもたらす挑戦という現実が変わらない以上、全体としてアジアにとっては良いニュースと言って良いとだろう。

民主主義から「ルールに基づく秩序」へ

 第二に、バイデン政権が「民主主義対権威主義の闘い」というレトリックを若干緩めようとしているというモハンの指摘は、少なくとも日本の報道では余り目にすることの無かった重要なポイントだと思われる。2021年12月にバイデン大統領がオンラインで主催した「民主主義サミット」には、東南アジアからは、ミャンマーはおろか、米国の条約同盟国であるタイや南シナ海への対応において日米と同じ戦略目標を共有するベトナムも排除され、一体何を目指しているのか首をかしげざるを得なかった。

 正に、このような「誤り」を修正する力を持っているのが米国の優れたところだろう。バイデン政権は、民主主義重視の旗を降ろす訳ではないが、新たなキーワードは「ルールに基づく秩序(国際システム)の支持」である。モハンも指摘するように、中国がもたらす挑戦を考えれば、これによりバイデン政権の優先度が微修正された意味は大きい。

 最後に、北朝鮮については、新戦略は米政権におけるプライオリティの低下を裏打ちするような内容になっている。新戦略では、北朝鮮の核・ミサイル開発を抑止するための米国の選択肢は限られていると強調し、非核化への持続的対話を追求するとの基本姿勢を維持するにとどまっている。これは、正に「戦略的忍耐」=「何もしないこと」の継続であり、これがワシントンの雰囲気であることは、残念ながら十分認識しておく必要があるだろう。

 まさに、良いニュースと悪いニュースが混在しているのがこの新戦略なのだ。

   
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