有権者の関心はインフレ、エネルギー問題に
9月から10月にかけて行われた米CNNの世論調査では、投票に際し重視する項目として90%の有権者が挙げたのは経済だった。次いでインフレ84%、選挙の規範83%、銃規制83%、中絶の権利72%、移民問題72%、気候変動60%となっている。ただ、支持政党別で有権者の重要視する項目を見ると、共和党と民主党支持者には大きな違いがみられる。
クイニピアック大学が11月2日に発表した世論調査では、最も喫緊の課題は何かとの質問に対し、36%がインフレを挙げ、次いで10%が中絶の権利を挙げているが、共和党、民主党支持者間で大きな違いがみられる。
共和党支持者の57%がインフレ、15%が移民問題を挙げたのに対し、民主党支持者は中絶の権利が19%、インフレが15%となっており、関心は大きく異なっている。
バイデン大統領の支持率となると、さらに両党間の差は極端になる。全体では支持率36%だが、共和党支持者では僅か2%しかない。民主党支持者の支持率は79%にもなる。
10月26日から28日にかけ行われたCBSと調査会社ユーガブの共同世論調査では、「経済」と「民主主義を機能させること」のどちらにより関心があるかとの質問に対し、民主党支持者は、「経済」21%、「民主主義」63%。共和党支持者は「経済」70%、「民主主義」29%だった。
共和党支持者は、経済問題に関心が高く、結果エネルギー生産も重視する。「共和党が多数派になれば何を試みるか」との質問には、71%の有権者が「エネルギー生産増を図る」と答えている(表)。
今の予測では、下院では共和党が多数派になる可能性が強く、上院は拮抗するとされている。共和党が多数派になれば、エネルギー・環境政策には影響がありそうだ。国際社会もその影響を受けることになる。
エネルギー・環境政策はどう変わるのか
共和党は化石燃料生産を重視しており、許可に必要な環境規制の緩和などを目指すことになる。また、化石燃料を犠牲にせず温室効果ガスの排出削減を達成することを目標とし、現在設定されている温室効果ガスの排出目標を白紙にすることも試みるだろう。
さらに、パイプラインなど化石燃料関係のインフラ建設に関する許可も簡素化する一方、重要な原材料を中国・ロシアに依存しなくてもよいように、重要鉱物資源の採掘に関する許可の簡素化も目指すことになる。
8月に民主、共和両党合意の下に成立した「インフレ抑制法」は、10年間で約3700億ドル(約55兆円)のエネルギー・気候変動関連の支出を見込んでいる。共和党内にはインフレ抑制法では税額控除が多くの分野で多用されているとの批判もあるが、再生可能エネルギー、小型モジュール炉、水素製造などに関する税額控除の恩恵は、共和党が地盤とする州にもあることから、大きな方針の変更はないだろう。
一方、バイデン政権による連邦所有地での石油・天然ガスの鉱区設定の制限、あるいは証券取引委員会が提案している上場企業の気候変動に関するリスクの開示要求などについては、厳しい対応がなされることになるとみられる。
米国で共和党が下院の多数を握ると、気候変動への取り組みは後退、あるいは停滞することになる。一方、再エネ、原子力、水素、二酸化炭素の捕捉・貯留(CCS)、関連技術開発への支援策に大きな変更はないだろう。
米国が化石燃料生産と輸出増を実現すれば、世界のエネルギー市場の需給の緩和につながる。温室効果ガス排出目標の後退は、気候変動問題に関する米欧の関係に亀裂を生じさせ、日本の政策にも影響を与えることになる。米欧が異なる政策を取る時、日本はどうするのだろうか。シナリオを考えておく必要がありそうだ。