最大の功労者は、叩き上げ社長
ウォルマートの躍進が目立つようになったのは、コロナが始まった頃だ。人々が買い物に出かけるのを控え、オンラインショッピングが急激に伸びたことで、これまでアマゾンを利用していた人が価格に惹かれてウォルマートを利用するようになった。折しもウォルマートは「ネイバーフッドストア」と呼ばれる生鮮食品を扱う店舗を拡大しており、配達を行うことでこの部分が伸びたことが大きい。
さらに今年に入り、インフレが人々の生活を圧迫するようになった。これまで安売りストア、というイメージが強かったウォルマートだが、従来の顧客層に加えて中流層もウォルマートを利用する率が高くなった。
しかし、ウォルマートの最大の功労者は、現社長兼CEO、ダグ・マクミリオン氏だろう。同氏は高校卒業後時給労働者としてウォルマートで働き始め、以来ウォルマート一筋の経営者だ。後に働きながら大学を卒業しているものの、米国の大手企業では数少ない叩き上げの経営者である。同氏を称賛する声は大きく、今年のCESラスベガスで基調演説を行った時は会場がスタンディングオベーションで迎えたほどだ。
豊かではない層の出身であるマクミリオン氏は、人々のニーズを察知しそれに応えることに敏感だった。例えばウォルマートはいち早くフィンテックに乗り出したが、それはデビットカードの発行により「家を離れて学校に通う子供に無料で即座に送金できる」「計画的な金の使い方を啓蒙する」などが目的だった。
さらに社員が大学に通うための学費の援助、産休制度の拡大など、ウォルマートで働きやすくする環境を整えると同時に、ロボット宅配やEVの導入などで年間10億トンの地球温暖効果ガス削減を確約するなど、環境問題にも積極的に取り組んでいる。テスラと組んで全米の店舗にソーラーパネル設置を開始したのもウォルマートが最初だ。
店舗に薬局を併設していることからヘルスケア産業にも乗り出し、また現在遅れを取っているIT関連事業にも今後投資を強める、という。このままウォルマートがIT事業で成功を収めれば、GAFAMWと称されるようになる可能性もある。
一方で実店舗を展開するがゆえのコスト問題もある。インフレにより人件費が上昇し、従業員による待遇改善圧力は高い。返品率の高さは利益を圧迫し、今年はブラックフライデーにも人影がまばらだった、と言われる。もし来年以降米国が景気後退に見舞われた場合、小売業として影響を受けることは必至だ。
それでもeコマースの分野でもアマゾンを脅かす存在となったウォルマート、次はどのようなビジネス展開を行い、単なる小売業から脱却していくのかに注目が集まっている。