休業要請をめぐる国と都の対立
コロナ禍で、緊急事態措置を講ずることを定めた新型インフルエンザ等対策特別措置法に新型コロナウイルス感染症を対象としている。「まん延防止等重点措置」を創設し営業時間の変更等の要請、要請に応じない場合の命令、命令に違反した場合の過料を規定するなど強化された。
もともと外出自粛や休業を要請する権限は新型インフルエンザ等対策特別措置法により主として都道府県知事にあるが、コロナ禍で政府の緊急事態宣言発令に伴って改定された「基本的対処方針」では、自粛要請を「国に協議の上」行うとの文言が入った。
20年4月に小池知事が「自分が社長だと思っていたら、国から天の声がいろいろ聞こえてきて、中間管理職になったようだった」と記者会見で発言したのは、休業要請の対象業種について国と都が一致せず紛糾したときのことだ。
一般的には感染症は国際的な問題であるし、国家存立の基本的な問題だから感染症対策は国の役割が基本であるように見える。実際、国の各種の法律で細かく規定されている。それなのに、感染症をめぐって自治体の発言や政策が目立つ。国と自治体、公共と民間の役割が整理されていないのが一因だ。
医療には保険制度だけで対応できない部分がある
区市町村別でも、たとえば東京都には62の区市町村があり、人口百数十人の青ヶ島村から100万人近い世田谷区までいろいろある。
感染症対策は国と都道府県が中心のように見えるが、基礎自治体が先行して対策を講じることもある。民間病院が対応するために基礎自治体が先行して税を投入する例も生じた。
東京23区の場合は基礎自治体であるが、保健所は各区がもっている。各都道府県でも、20ある政令指定都市や大きな市では保健所を道府県ではなく市がもっている。
知事が方針を決めても実際に感染対策を実施するのは、各区市の保健所である。ちなみにコロナ感染者の全数把握見直しも保健所と発熱外来の負担軽減のためだった。
自宅療養者に対する食糧支援(レトルトなど)やかかりつけの薬局による対症療法薬の配達など感染者に対して自治体と保健所の手配は大きな役割を果たしている。
日本の医療保険は市場原理に委ねず、保険料を強制徴収し、診療報酬や薬価を公定する公共政策としている。医師は正当な理由がない限り診療を拒めない、いわゆる応召義務が定められている。
一般に大都市には大病院が多いから重症の患者は県境を越えて他県の病院を利用する例も多い。同じ県の中でも他の区市町村の病院を利用する例も多い。病院側は基本的にそれを拒むことはできない。