国は医療圏域を自治体ごとに決める仕組みをつくっているが、患者の方は必ずしもそれに従って受診するわけではない。国の制度もそれを認めている。認めるどころか医師側に応召義務を課している。
一方医療保険制度は医療保険で日本の医療全ての財源をまかなうという制度設計にはなっていない。介護保険制度が高齢者介護の全てをまかなう設計になっていないのと同じである。
だから他地域からの患者あるいは重い患者を引き受ける自治体は税の投入もする。そうでなくともコロナ禍のような非常時には医療保険だけでは対応できず別途公的資金を投入しなければ対応できない。公共政策の出番である。
高度・専門・不採算医療は誰が担うのか
日本は欧米諸国に比べれば感染者数や重症者数が少なく人口比の一般病床数は多いのに、なぜコロナ禍で病床がひっ迫するのか。いろいろな理由が考えられるがひとつのヒントとして日本では人口当たりのICU病床数が欧米諸国に比べて少ない現状がある。
厚生労働省の「ICU等の病床に関する国際比較について」(2020年)によると、人口10万人当たりのICU等病床数は、米国34.7床、ドイツ29.2床に対して日本は13.5床となっている。
このICU等は、ICU(患者2人に対し看護師1人配置)に加え、いわゆる準ICU(患者4人または5人に看護師1人配置)も含まれている。そこで準ICUを除き、ICUだけをとる。厚生労働省の「病床機能報告」(2017年)によると、日本全国の平均でICUは人口10万人当たり5.6床、準ICUは8.1床となっている。都道府県別ではたとえば東京都はICUが8床、準ICUが7.1と全国平均に比べ、ICUが比較的多く、近県に対して中核的役割を担っていることがわかる。
ICUは集中治療室とも言われ、生命の危険に瀕している重篤な患者を対象としている。一般の救急病院すなわち二次救急体制では対応できない重症および複数の診療科領域にわたる高度な診療機能をもち、三次救急医療施設を救命救急センターともいう。
世界に冠たる日本の公的医療保険制度のもとでこれら三次医療にたいしては手厚い措置がなされているし、今回のコロナ禍のもとではさらに加算等が行われている。それでもひっ迫した時期があるのは、日ごろから、感染症をはじめ高度・専門・不採算の医療に対して十分な備えを行っていないと急には体制をつくれないからである。この面では各都道府県や区市町村など自治体が日頃から医療に対する税の投入を含め協力連携関係を強固に構築しているかどうかが問われる。
この際、医療に対する医療保険の役割と税の投入の役割、そして感染症に対する公立病院と民間病院の役割の整理についても議論することが望ましい。