2023年1月30日(月)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2022年12月15日

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唐木英明 (からき・ひであき)

東京大学名誉教授

1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部教授、日本学術会議副会長、倉敷芸術科学大学学長などを経て現職。著書に『不安の構造 リスクを管理する方法』(エネルギーフォーラム新書)。

 新型コロナウイルスの感染症法上の分類を危険度が2番目に高い「2類」相当から、季節性インフルエンザと同じ「5類」へと引き下げる議論が政府中心になされている。中国・武漢で最初の感染者が発症したとされる日からすでに3年。分類を2類から引き下げる必要性は、日本での感染拡大初期段階に医療現場から聞こえていた。なぜ、日本は感染対策を転換できないのか。その要因や続けることへの弊害を医療、政治、経済から検証した。
(Rattankun Thongbun/gettyimages)

 政府は12月2日に成立した改正感染症法の付則に、新型コロナウイルスの感染症法上の分類見直しを速やかに検討すると明記した。これに沿って加藤勝信厚生労働大臣は同日の記者会見で、感染法上2類相当の「新型インフルエンザ等感染症」に指定されている新型コロナの分類を5類に変更することも念頭に、見直す議論を加速させる考えを示した。

安倍元首相が見せた方針

 これまでそんな話を2回聞いた。1回目は約2年前の2020年8月、突然の辞任会見の際、安倍晋三首相が5類への変更を含む対策の緩和について述べた。当時は流行2波の時期で、医療機関も保健所も大混乱していた。

 今からみると1波と2波はさざ波程度の感染者数だったが、にもかかわらず混乱が起こった原因は新型コロナを2類以上の取り扱いにしたことだ。感染者の8割が軽症か無症状であるにもかかわらず、全員を少数の指定病院に入院させ、病院は治療だけでなく調査書を作成して保健所に送付する全数報告を義務付けられた。

 保健所は増え続ける感染者の入院先を調整し、濃厚接触者を隔離する作業に追われた。そんなところにインフルエンザ流行期を迎えようとしていた。インフルエンザは発熱などの症状が類似し、検査でどちらなのか判明するまでは2類扱いになり、医療崩壊が起こりかねない。

 そこで当時の安倍首相が発表したのは、軽症や無症状者は宿泊施設や自宅での療養を徹底して保健所や医療機関の負担軽減を図ること、感染者の受け入れ医療機関に支援を行うこと、そして2類以上の扱いについては政令改正を含め、運用を見直すことでインフルエンザ流行期にも十分な医療提供体制を確保しようとするものだった。メディアは一斉に2類と5類の違いを解説して、見直しがすぐにも行われるような報道が続いた。


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