しかし、日経のスクープの時点では、川崎重工の開示内容は「当社が発表したものではなく、そのような事実もありません」とそっけないものだった。日経に「抜かれた」各社は独自に取材した結果で記事を書いているはずだ。仮に内部の反対などが多くて、実現性が危うい状況なら会社側はきちんと否定すべきなのに、していないのであれば、報道され、結果として既成事実化していっても仕方がない。2か月近くも放置しておいてから訂正するというのは極めて不誠実だ。特に、株主に対して失礼だろう。日本取引所グループの斉藤惇CEOも18日の定例会見で、「前の社長も新しい社長も、株主がまったく頭から消えている」と苦言を呈した。
こうしたことをふまえると社内のコンセンサスを十分つくることができない低いガバナンス(企業統治)のままずるずるやってきた川崎重工の体質が問われても仕方あるまい。
厳しいメディアの評価
実際にメディアの評価は厳しいものだった。せっかくのスクープを台無しにされた日経の6月15日付の社説は「信頼を失墜させた社長解任劇」という見出しをとり、「株主総会直前での社長解任劇は重要な意志決定について詰めの甘さを露呈」と断じた。読売新聞も16日の社説で「社内抗争による混乱に市場の目は厳しい」と批判した。
ただ実際にはなかなか難しいが、取材する側も会社のウソや実態を見抜けなかったのは残念なことであった。部門別の縦割りが過ぎる川崎重工の社内構造や、人事争いなども今回の「事件」の背景として指摘される中、一会社の内部抗争と片づけてしまうには企業統治や情報開示のあり方など日本の企業社会に突きつけた課題はあまりにも大きいといえる。
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