昨年10月、炭鉱と発電所を保有するRWEは、連邦政府のハーベック経済・気候保護相、ノルトライン・ヴェストファーレン州のモナ・ノイバウル経済・産業・気候保護・エネルギー相と炭鉱の拡張に合意した。
両相共に緑の党出身だが、脱石炭に反しても、CO2の排出量が増えてもエネルギー・電力を確保せざるを得ないのだ。褐炭の生産増と引き換えに、38年に予定されていたRWEの褐炭火力発電所の閉鎖を30年に前倒ししたと発表されたが、360万キロワットの褐炭火力を33年末まで予備力として保有することも可能になっている。実際には脱石炭は2033年かもしれない。
脱原発に続き、脱石炭も打ち遣った緑の党に対し、炭鉱拡張に反対していた活動家は憤り、「裏切られた」「二度と緑の党には投票しない」とも発言したと報じられた。
活動家が進めた脱炭素により世界の石炭・天然ガス供給が不足し価格も上昇した。そのためドイツ国内で褐炭の生産を拡張しなければいけなくなった事実を、活動家が理解しているとは思えない。
電気料金上昇も引き起こした
活動家、機関投資家、国際金融機関が進めた脱炭素が、化石燃料価格上昇原因の一つになったが、その影響は日本の電気料金にも及んでいる。日本の電力供給の7割以上は火力発電所が担っている。LNGと石炭火力発電だけで3分の2を供給しているが、エネルギー危機により、そのコストは大きく上昇した(「上がり続ける電気料金 節電要請では抑えられない」)。
例えば、21年4月から昨年11月までの間に、石炭火力の燃料費は約6倍に上昇している(図-8)。現在の規制料金の燃料費調整制度の下では、大手電力会社は燃料費の回収ができないため赤字になる。
長期間の赤字が続くと電力供給に支障をきたすことにもなりかねない。東京電力などが規制料金の値上げ申請に追い込まれた原因の一つは、性急な脱炭素だったと言える。
脱ロシアのために必要なことは、エネルギー自給率向上を図りながら脱炭素を進めることだ。一方で、世界で依然として必要とされる化石燃料供給を考える必要がある。
日本を含む先進国では、今後原子力と再エネを中心に脱炭素電源が増えることになるだろう。日本は先進型原子炉、小型モジュール炉などを活用し自給率向上、料金安定化を図り、同時に脱炭素を行うことも可能だろう。
途上国では、先進国ほどのスピードで脱炭素は進まない。途上国を中心に必要とされる化石燃料を潤沢に供給することを忘れてはいけない。性急な脱炭素の要求は世界の多くの人を苦しめることをグレタさんも考えるべきだ。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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