2024年5月7日(火)

Wedge SPECIAL REPORT

2023年3月1日

AI時代人間との共存はできるのか?

 お金持ちとそれ以外という「二極化」が進む中で、死なない知性ともいえるAIの研究が盛んになっている。もっといえば、もはや後戻りできないところまで来ており、近い将来、確実に社会に実装されていくことになる。企業経営者などに話を聞くと、「AIによって人手不足の解消につながる」「労働生産性を高めることができる」という答えが返ってくる。しかし、AIに仕事を代替された人間はどこに行くのだろうか? ベーシックインカムをもらい、衣食住に困らない生活が実現できれば、幸せなのだろうか? 疑問は尽きない。

 AIが発達することで、人間は働かない存在になるかもしれない。しかし、世代交代を繰り返すうちに、人間がそのAI自体を自ら作れなくなり、AIに依存することになる。その結果、人間は進歩できなくなってしまう。

 これは「進化の袋小路」に入ることと同じだ。〝生きた化石〟と呼ばれる「シーラカンス」は深海に生息するが、その環境が安定していたために、結果的に外見は進化がストップしてしまったように見える。進化には「死」と同時に「環境変化」が欠かせない。シーラカンスと違い、人間は自ら環境の変化をコントロールし、その果てにAIを生み出した。

 この行きつく先を、生物学者として想像すると、少し怖くなってしまう。それは、ハチやアリの世界と似ているからだ。彼らの世界は「生むもの(女王バチ・アリ)」と「働くもの」で役割が固定され、それぞれの姿形は全く同じで効率化が徹底されている。つまり、無個性な世界になってしまうのだ。

大量絶滅期を人間は乗り越えられるのか?

 AIのプラス面を挙げるとすると、人類を滅亡から救う可能性があることだ。現在は過去最大ともいわれる、生物の「大量絶滅期」に入っている。隕石の衝突で恐竜時代の白亜紀では、地球上の7割の生物が死滅したように、地球ではこれまで何度も大量絶滅が繰り返されてきた。

 現在は気候変動などの影響による絶滅に加えて、戦争による大量破壊兵器の使用で絶滅の可能性もある。このような愚かしい戦争を、AIによるシミュレーションで戦わずして回避することができるかもしれない。

 もう一つあるとすれば、「宇宙」での活用だ。不老不死となった人間がAIと共に未知なる宇宙を旅する……。これであれば、その影響を受ける人は限定される。

 iPhoneを世に出した、アップル創業者のスティーブ・ジョブズは、自らの子どもがデジタル機器を使用することを制限していたという。それは、時間を無駄に使わせる装置だと知っていたからだろう。同じようにAIを何のために使い、何に役立つのかを考えてみるべきだ。

 不老不死になったり、AI診断によって自分の人生が決められたりすることが良いと思う人もいるだろう。しかし、私は「死」というゴールがあるから人生は充実しており、うまくいったり、失敗したりするから、人生は楽しいのだと思う。うまくいくかどうか分からないが、好きな相手に気持ちを伝える。そのリスクをとらずに、AIに診断してもらうのは、ちょっと味気ないかもしれない。

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「人が死ぬ話をするなんて、縁起でもない」はたして、本当にそうだろうか。死は日常だ。その時期は神仏のみぞ知るが、いつか必ず誰にでも訪れる。そして、超高齢化の先に待ち受けるのは“多死”という現実だ。日本社会の成熟とともに少子化や孤独化が広がり、葬儀・墓といった「家族」を基盤とするこれまでの葬送慣習も限界を迎えつつある。そのような時代の転換点で、“死”をタブー視せず、向き合い、共に生きる。その日常の先にこそ、新たな可能性が見えてくるはずだ。

   
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