本誌2023年1月号の特集『農業にもっと多様性を! 価値を生み出す先駆者たち』の取材で、茨城県龍ヶ崎市の横田農場を訪問したときのことだ。平安時代から稲作を続ける大規模稲作農家の横田修一さんが見せてくれたのが『あさごはんのたね』(原案・アグリバトンプロジェクト、イラスト・小林由季、ニジノ絵本屋)という絵本だった。「妻が制作にかかわっているんです」と、横田さん。
かわいらしいイラストにひかれてすぐに購入した。私事で恐縮だが、昨年、小学2年生の娘に読書感想文の絵本として『タンタンタンゴはパパふたり』(ポット出版)を勧めてみた。雄のペンギン2羽がタマゴからヒナを育てるという話なのだが、娘は夢中で読みはじめ、学校で優秀賞を取り、都大会にまで進出するという事態になった。今回も興味を持つかも……と、娘と一緒に読んでみた。
読んでみると、今回は娘以上に、私のほうが面白さにひかれてしまった。あさごはんの食卓に並んでいる食材が、1年を通じてどのように育っていくのか、分かりやすく描き出されていたからだ。「都市農業」と、言われるように実は都会でも農業は行われているのだが、実際に作物が育つところを目にすることはマレだ。明治の文豪、夏目漱石も東京の「早稲田」という田んぼが広がる場所で生まれたのに、「水田の苗と食べる『ごはん』が同じだと知らなかった」と、親友である、俳人正岡子規が『墨汁一滴』の中で記している。やはり、身近にあっても、興味関心を持たなければ、ないのも同じなのだ。
絵本『あさごはんのたね』を、どうしてつくることになったのか? 横田祥さんに話を聞いた。
職業ランキングのランク外
そもそものきっかけはなんだったのか? それは農家にとっては由々しき問題だった。なんと、茨城県内のある中学校で、なりたい職業ランキングを調べたところ、「農業」と挙げた生徒がいなかった、という結果を知ってしまったからだ。農業産出額では、全国でもトップクラスの茨城県なのにどうしてだろうか?
「このあたり(龍ヶ崎市)も、田んぼや畑が広がっていますが、実際にお家で農業をしているという家庭は少数派です。田舎には住んでいても、会社勤めという人のほうが多いんです。かつては、兼業農家さんもいましたが、それも少なくなっています。子どもたちは、『(汚れるから)田んぼに入ってはダメ』『ムシ採りもしたことがない』『野菜はスーパーで買うもの』という状況になっています」と、祥さん。
確かに、ご主人の修さんも、お父さんの後を継いで以降、毎年のように「(自分たちでは継続できないので)うちの田んぼをお願いしたい」という要望に応える形で、170ヘクタールまで広がったと、話していた。だから、田舎に住んでいても「田んぼ(農業)は遠い」のだ。