「ゴールデンベア」などのブランドを展開する老舗アパレル企業コスギ。社員の久保田正恵さんは販売の面白さに魅了されて『「客単価アップ」販売のススメ』(同文舘出版)という本まで出した。久保田さんの話を聞いていると、買いものの仕方を変えてみようと思えてくる──。
久保田さんが販売の面白さを知ったのは、知人からの頼みで試食の販売員をピンチヒッターで務めたことだった。「小心者」ということもあって、「自分が売る商品のことを何も知らずに店頭に立つことはできない」と、商品についてネットなどで調べ、メーカーにもヒアリングするなど事前準備を徹底して本番に臨んだ。もちろん、それで最初から上手くいったわけではないが、調べた情報を丁寧にお客様に説明し、質問に答えていくことで、次第に商品が売れるようになった。
軌道に乗ってくると、1日で5㌔グラムのコメを138袋売ったり、田舎の小さなスーパーでカクテルベースを開店2時間で全ての在庫を売り切るということができるようになった。久保田さんはここであることに気付いた。
「売ることとは、商品と代金の交換ではなく、感謝の交換である」
小誌記者にとって買いものをする際、販売員に感謝したことといえば「値引き」してくれたことくらいしか思い当たらない……。どうして「価格」、つまり「安さ」への優先順位が高くなってしまうのだろうか。
「一番の原因は、『損をしたくない』という気持ちがあるからだと思います。高いものを買って、それが失敗ということであれば、後悔しますが、安いものであれば、『仕方ないか』と諦めることができます。もう一つは、高いものを買う罪悪感です。だから、『安かったら買おう』という動機が生まれる。これはバブル崩壊以降、特に強まっていると思います」(久保田さん)
しかし、安さには落とし穴がある。「気に入ったわけでもないのに価格だけで買った商品は『がっかりする買いもの』になることが多いのです」
確かにそうだ。記者自身、セールで下着類をまとめ買いした際、そのこと自体を忘れて包装から出すことなくクローゼットに眠っていることがある。
「たとえセールであっても、お客様には絶対使うものをおすすめします。セール品で満足いただけるものがなければ、値下げしていない商品をおすすめし、なぜその値段なのかという理由をきちんと説明します。価格だけで売らずに、なぜその商品を提案するのかを説明することが大事で、結果的に、客単価のアップにもつながるのです」
洋服など買う際、「何かお求めですか?」と販売員から声をかけられると、そそくさとその場から去ったり、「ちょっと見ているだけです」と、会話することを避けたり、といった経験をしたことがある人は少なくないだろう。
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