2024年4月26日(金)

世界の記述

2023年3月8日

国民党は中国との対話に着手

 台湾の世論が「反中親米」一色ではないことから、国民党は中国との対話に乗り出した。国民党の夏立言副主席、同党大陸事務部副主任が2月8日、中国本土を訪問。北京、江蘇南京、上海、湖北武漢、重慶、四川成都の主要各都市を巡った。民進党と違って国民党は中国と太い対話のルートを維持しており、中国との衝突を恐れる世論の一部からは期待の目が向けられている。

 夏副主席らは中国各都市で、各市トップの党書記が自ら盛大に歓待した。首都北京では中国共産党政治局常務委員で、党内序列4位の王滬寧氏が会談するなど、野党の代表団としては破格の扱いを受けた。

 英BBC放送(中国語版)によると、中国側は会談で「一国二制度」、「武力統一」など台湾世論を刺激する言葉は避け「92年コンセンサス」だけに触れたそうだ。これは1992年に中台の窓口機関が「一つの中国」原則を口頭で確認したとされるものだが、蔡英文政権は存在を認めていない。

 中国で台湾政策を担当する宋濤・国務院台湾事務弁公室主任は、夏副主席との会談で、「台湾独立」に反対し「92年コンセンサス」を認めるなら、民進党幹部の中国訪問を歓迎すると述べた。この発言は、中国が態度を軟化させる兆しとして台湾でも注目を集めた。

 また、オーストラリア国立大の宋文笛講師は、上海の名門、復旦大学元教授の王滬寧氏が、最高指導部内で台湾政策の責任者になったとみられることに注目。BBCに対し「学術界と上海を背景に、台湾の産官学と直接、間接の交流の機会を設けようとするだろう」と述べた。

 台湾メディアの上報によれば、宋講師の指摘を裏付けるように、中国上海市台湾事務弁公室の李驍東副主任らが率いる一行が18日に台湾を訪問。20日には台北市を訪れ、昨年の統一地方選挙で当選した国民党の蒋万安市長と会談した。会談は非公開だったが、今後の上海と台北の交流強化で合意したものとみられている。

世論調査には中台対話希望の動きも

 台湾世論は中国との対話を望んでいる側面もあるとみてよい。台湾メディアの美麗島電子報が2月17と18日の両日、コンピューター支援による電話調査(CATI)方式により20歳以上の1071人から回答を得た世論調査の結果によると、「中台政府が対話と交流を続けることは、台湾に与える利害」を聞いたところ、77%が「利益が弊害より大きい」と回答。また、台湾独立に対する考えでは「新憲法制定と台湾共和国建国」(台湾独立)に賛成が14%、「台湾は既に独立。国号を変える必要はない」(現状維持)が79.3%を占めた。

 中台関係に対する考えは、24年の総統選挙の予想候補者の支持状況にも反映している。美麗島電子報の世論調査で、24年の総統選挙に立候補すると目される人物への支持を聞いたところ、民進党の賴清德主席と国民党の侯友宜・新北市長の一騎打ちとなる場合では、侯氏が46.9%で賴氏の40.2%をリードした。一方で、電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手、鴻海精密工業の創業者、郭台銘氏が国民党から立候補した場合は、賴氏が46.2%、郭氏が36.2%で10ポイントの差がついた。

 この世論調査では、頼清徳氏を「独立派」、侯友宜氏を「永遠現状維持派」、郭台銘氏は「中台統一派」とみる回答者が最多だった。24年の総統選では、対中政策は最大の争点の一つとなる。勇ましい民進党主席でなく、穏健派の侯友宜氏がかなり善戦しそうな気配となっている。

 中国による台湾武力侵攻の現実味が増す中、対中政策は自らの生死すら左右しかねない。台湾の世論は今後、反中親米と対中融和の間で揺れ動く可能性があるように思える。

   
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