2024年11月24日(日)

#財政危機と闘います

2023年4月5日

 そもそも、独身税、子なし税は、旧ソ連など旧共産主義諸国で、政府の歳入を確保し、結婚や出産を奨励するため実施された。例えば、ブルガリアでは、20世紀初頭に導入され1989年の共産主義崩壊まで「独身税」は存続していた。未婚の男女に適用され、税率は所得に応じて段階的に設定され、高所得者ほど高い税率が課されていた。しかし、残念ながら、こうした独身税や子なし税が出生増に資することになったというエビデンスは存在しないようである。

 こうした旧共産主義諸国の経験に照らせば、日本で今回導入が予定されている「独身税・子なし税」は失敗する可能性が高いだろう。

活用すべき205兆円もの年金積立金

 では、現在有力視されている独身税・子なし税に代わる財源はどこにあるのだろうか。それは2021年度末現在で204兆6256億円となっている年金積立金の取り崩しである。

 考えてみれば、年々増える一方の社会保障財源を確保するために消費税を増税し続ける傍ら、年金制度が205兆円にも及ぶ莫大な積立金を有していて、総じてみれば残高も増やし続けているのは、読者の皆さんもおかしいと思われるのではないか。

 もし仮にこの205兆円も年金積立金を少子化対策のためだけに毎年5兆円ずつ取り崩していけば、40年以上分の財源を新たに確保できることになる。

 もちろん、04年の「100年安心プラン」で決められた通り、現在、年金積立金は100年を目途に年金の財源とするべく取り崩しを行っている。子育て支援のために年金積立金を取り崩して使うとなると「年金の財源をどうするのか?」という怒りの声も聞こえてきそうだが、そうした批判には「異次元の少子化対策によって増えた子どもたちが年金をはじめとした社会保障を支えることになるから大丈夫でしょう?」「そのための異次元の少子化対策のはずなのでは?」と返したい。

 それとも社会保険料引き上げで捻出した財源では子どもが増えるけれども、年金積立金を取り崩した財源では子供は増えないというエビデンスでもあるのだろうか。

 もう一つ考えられる批判は、年金積立金は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を通じて、市場で運用されていることもあって、少子化対策の財源を捻出するために資産を売却するのは実効性があるのかというものだろう。特に、日本の株式市場では、直接保有する上場企業の株式資産が48.9兆円(2347銘柄)と、日本全体の株式時価総額730.4兆円の6.7%を占める、最大の株主となっている。

 しかし、毎年5兆円ずつ長い時間をかけて取り崩していくのだからそれほど大きなインパクトにはならないはずだ。あるいは、GPIF設立後06年度から21年度までの運用収益累積額は92兆5255億円であり、単純平均では1年あたり5.8兆円の運用収益があるので、これを財源に組み入れるのもアリだろう。


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