岸田文雄内閣の「異次元の少子化対策」に必要となる財源を賄う案として、年金や医療、介護などの社会保険からお金を拠出し子育てを支える「子育て支援連帯基金」が、政府内部でも有力な案として検討が進められているとのことだ。連帯基金は「年金、医療、介護保険は、自らの制度の持続可能性を高めるために、子育て費用を支援できるようになる」のが目的という。
岸田首相は施政方針演説で「各種の社会保険との関係など、さまざまな工夫をしながら、社会全体でどのように安定的に支えていくかを考えてまいります」としている。社会保険を子育てに活用することは意義のあることなのだろうか。
何のリスクに対する保険料なのか?
そもそも保険とはリスクをヘッジのためのもので、リスクに備えてあらかじめ保険料(お金)を出し合ってプールし、リスクに見舞われた者に対して必要な金銭やサービスが給付される仕組みである。運営主体によって、民間保険と社会保険に分けられる。
民間保険は民間企業が運営主体となり原則必要な者が自由意思で加入すればよいのに対して、社会保険(公的保険)は政府が運営するもので、原則法律によって加入が強制される。公的年金保険は長生きのリスク、公的医療保険は病気のリスク、介護保険は介護が必要な状態に陥るリスクをヘッジするものだが、子供が生まれることはリスクではないのは明らかだ。
ましてや、子どもが生まれず国や社会保障制度が存亡の危機に陥るのは社会保険が対象とすべきリスクではない。政策の失敗である。少子化対策というこれまでの一連の政策の失敗に対していかなる屁理屈をつけようとも社会保険で対応するのは姑息な弥縫策であり、ナンセンスである。
筆者は支持しないが、「異次元の少子化対策」に新たな財源が必要なのであれば、正々堂々消費税の引き上げを国民に提示し、説明を尽くすべきだろう。