2024年11月22日(金)

#財政危機と闘います

2023年2月8日

子ども・子育て拠出金

 「子育て支援連帯基金」は異次元の画期的なアイデアのように感じられるかもしれないが、すでに存在している仕組みの拡張版に過ぎない。その既存の仕組みとは「子ども・子育て拠出金」である。

 子ども・子育て拠出金は、子育てに必要な費用を社会全体で支援するという理念のもと、厚生年金の適用事業所の事業主が、厚生年金保険加入者全員分の拠出金(標準報酬月額・標準賞与額に拠出金率を掛けて算出される)を負担することとされている。したがって、徴収などの事務手続きも日本年金機構が行っている。

 拠出金率は、2014年度には0.15%であったものが、段階的に引き上げられ、22年度現在0.36%となっている。適用事業所は、労使折半の厚生年金、健康保険に加えてこの拠出金を全額負担している。

 社会保険のメリットは、負担と受益が明確にリンクしていることにある。しかしながら現在ではすでに、社会保障制度を通じて現役世代から高齢世代への資金援助が起きてしまっている。公的年金では基本的に現役世代が、公的医療保険に関しても後期高齢者医療制度を中心に現役世代が大部分を負担している。

 このように受益と負担のリンクが外れ、社会保険の原理を逸脱した野放図な現役世代から高齢世代への膨大な所得移転、つまり社会保障制度のスリム化を行わないまま新たに社会保険から拠出金を設けるのは、未婚の人、子どもを持つ予定のない人、子育てが終わった人の負担を増やすだけだ。しかも、社会保険料の引き上げは法律ではなく政令で可能となるので、いったん認められれば自動的に引き上げられていく可能性もある。

社会全体で子育てを支援するはずが…

 このように「子ども・子育て拠出金」は、「子育てを社会全体で支援する」とはうたいながら、現実にはなぜか高齢世代は原則負担する必要がなく勤労世代のみの負担とされている。

 今回検討されている「子育て支援連帯基金」も拠出側の保険制度が増えるだけで、現役世代が主に負担する社会保険から拠出するという基本的なスキームは同じである。裏を返せば高齢世代はほとんど負担をしなくても済むことを勘案すれば、「子育てを社会全体で支援する」とは名ばかりで、現役世代の負担が増えるだけで、世代間格差の拡大が懸念される。

 しかも、そもそも、社会保険料も税であり、賃金への課税は結局労働者の負担なので、長期的に見ればわれわれの賃金を下げ、雇用を減らす方向に作用するのは間違いない。つまり、雇用や賃金という側面からも現役世代に悪影響をもたらす。


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