2024年7月22日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年4月12日

 3月14日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの社説‘The Missing U.S. Submarines for Australia’が、米原潜の対豪供与合意は素晴らしいことだが供与には何年もかかる、今回合意を契機に米国の攻撃型原子力潜水艦の年3隻建造体制に向けて取り組むべきだ、と述べている。要旨は次の通り。

(titoOnz/MarianVejcik/CRobertson/gettyimages・DVIDS)

 バイデンは3月13日、豪州に米原潜を売却すると発表した。これは、対中国抑止の新たな一歩となる。他方、米国の潜水艦建造は機能しておらず、海軍の潜水艦増強のための取り組みが急務だ。

 今回の合意は、米英豪3国が2021年に合意した安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」を拡大するものだ。米国は潜水艦の豪州への寄港を増やし、豪州要員は米国の海軍原子力学校に入学し、最先端の艦艇の運用方法を学ぶ予定だ。米英の潜水艦の豪州移動展開は、2027年に始まる。これらは、ハードパワー投入のために友好国が協力して進める段階的な計画であり、素晴らしいことだ。

 豪州は、退役する通常動力型潜水艦6隻を代替するために、バージニア級原潜を最大5隻、米国から購入する。この潜水艦は浮上せず長い距離を航行できる。米国の海中能力は、米国が唯一真に非対称的な優位を維持している分野だろう。

 米国の潜水艦配備公式目標は66隻だが、70隻あるいは78隻が望ましいとの指摘もある。しかし、現在の配備数は50隻にとどまり、老朽化によりこの数は更に減少する可能性がある。最新の艦船建造30年計画によれば、66隻達成は早くても2040年代後半となっている。

 米議会は、年間2隻のバージニア級原潜建造の予算を認めており、これを3隻に引き上げたい。しかし、今の造船能力から過去5年の年間建造は約1.2隻に留まっている。米国の造船企業は2隻の攻撃原潜と弾道ミサイル搭載原潜の建造で手一杯になっている。

 豪州は、今後何十億ドルもの資金を投入しなければならない。国防予算が 国内総生産(GDP) の約 2.1%相当の 300 億ドル程度である豪州にとって容易ではない。

 バイデンは、潜水艦開発に46億ドルを投じるとしているが、それだけでは何十年も続いた投資不足や熟練労働者の不足、サプライチェーンの障害、乾ドック(船体の検査や修理などのために水を抜くことができるドック)の不足などを埋め合わせできない。

 米潜水艦艦隊の衰退を修復するには、重点的取り組みの継続と大統領のリーダーシップが必要だ。バイデンが最近出した国防予算は、インフレを勘案した実質ベースで再び削減になっている。

 今回のAUKUS合意は、攻撃型原潜の年3隻建造体制に向けて国家的な取り組みを始める好機になる。

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 米国は、艦艇355隻体制を公式目標としている。しかしその実現は予算と建造能力に大きく制限され、現在保有数は約290隻。目下新たな戦略と海軍建造のあり方につき種々の議論が進行中だ。

 その中で、潜水艦隊増強は重要事項となっており、現状を不満足とする強い意見もある。この社説もその観点から、今回のAUKUSは評価した上で、米艦船の建造、特に原潜の建造能力の強化につき、今回合意をその取り組み強化の契機とすべきと期待する。米国の海軍力はインド太平洋で不可欠であり、社説の基本的な議論は、よく理解できる。


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