豪州の課題は経費を含め莫大である。原子力や原潜の人材をゼロから構築する必要がある。港湾、産業インフラも構築しなければならない。現在、豪州の与野党にはAUKUS合意に広い支持があるが、紆余曲折もあり得る。将来の政権の強い支持が必要となる。
発表されたAUKUSの工程表は3段階からなる。第1段階(23年から)では、米英の原潜が豪州への寄港を増やし、27年からはローテーション展開を開始し、豪軍の原潜管理や運用要員の訓練や人材を育成。第2段階(30年代から)では、米国がバージニア級原潜を3隻、最大5隻豪に売却する。
豪の現有のコリンズ級潜水艦は順次退役。30年代終わりには最初の新開発原潜「AUKUS級」が英海軍に引き渡され、2040年代初めには最初の豪国内建造の原潜「AUKUS級」が豪海軍に引き渡される。第3段階(50年代以降)に、豪は国内建造の新型原潜を8隻まで増やす。
複雑な工程表は、豪のコリンズ級潜水艦の退役時期、英国が新たに設計、開発するAUKUS潜水艦の建造時期、それをベースに豪が建造する最初のAUKUS納入時期(2040年代初め)の時間的ギャップを米国のバージニア級原潜で埋めることを前提とする。米国の原潜を基本にすればもっと簡単な工程になるが、米国の建造余力などが問題となる。また次期原潜を開発する英国の目的や英国との協力は満たされないことになる。
他方、豪州としては英開発の原潜の完成まで調達を待つことは出来ない(コリンズ級潜水艦の退役は30年代から始まる)。更に豪州は、原潜の建造は雇用などのため国内でやりたい。
米英豪の利害が一致したAUKUS
このようにAUKUSの背景には、米英豪それぞれの国家的な野心と必要性が合致した点も強い動機としてあった。英国には、欧州連合(EU)離脱後の外交安保上の存在理由を見つけたいとの動機もあったであろう。また米英豪は、それぞれに財政分担の計算もしたであろう(豪州は英米に応分の支出をする)。米国にとっても、対インド太平洋軍事政策やオペレーション上の利益(拠点の増大など)、同盟国間の負担分担や英国のアジア関与確保の考慮もあったであろう。
AUKUSは、インド太平洋で大きな対中抑止効果を持つだろう。米国は、豪州のインド洋側に準母港を持つことになる。三国の潜水艦のインターオペラビリティ(作戦融通性)は高められ、海中プレゼンスは大きく増強される。AUKUSの本質は、アングロ・サクソン同盟(米英豪原潜共同体)であると思われる。契約破棄となった豪仏協力に比べれば、安定感を与えるし、バイデンは13日の演説で、AUKUSの発展性に言及している。
実際、米国の論調では、日本との連携に強い期待が見られる。日本も可能なところから連携していくことが有益である。