インフラ企業が赤字になれば、買収しやすくなることも問題だ。09年から欧州諸国は財政危機に襲われた。PIGSと呼ばれた主として地中海諸国(ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペインだがアイルランドが入りPIIGSとすることもある)が立て直しのため資産を売却した。
喜んだのは中国だ。例えば、ギリシャの港湾施設、ポルトガルの電力関連のインフラを買った。
中国長江三峡集団は11年に民営化されたポルトガル電力公社力の21.75%の株式を27億ユーロ(約3900億円)で購入した。18年には公開株式買い付けで100%の権益取得を狙ったが、他株主が反対し実現しなかった。中国国家電網は12年にポルトガルの送配電会社の25%の株式を3億8700万ユーロ(540億円)で買収した。
今になり、欧州議会の議員からは中国が欧州内のインフラを保有することに対する危機感が表明されている。エネルギーのロシア依存が明らかにした強権国家依存のリスクが大きな懸念として浮上している。
政治は目先のことばかりに捕らわれるな
日本政府に危機感は皆無のように思われる。消費者のためとして電気料金を見かけだけでも良いので抑制することが役割と思っているのだろうか。
消費者庁が典型だが、規制料金審査とは関係ないカルテル行為などを理由に料金審査に口出しするのは、実質が伴わない人気取りのような行動に映ってしまう。政府の一部の人たちは、国家の基盤であるインフラ事業に対する希薄な危機意識しか持っていないようだ。
脱炭素、インフラ強靭化が必要な時代に、インフラ企業が投資できない状況を作り出しかねない。赤字になったインフラ企業の株価が下がり、加えて、万が一大手電力が発電、小売り、送配電と分割されることになれば、ますます買いやすくなる。中国を喜ばす政策にも見える。
今都心部の高級マンションの販売サイトの多くでは、中国語の表示が可能だ。不動産に加え、インフラまで買いやすくするのだろうか。
防衛力強化と同時にインフラの強靭化も必要なことを忘れているような状況には、暗澹たる気持ちになる。目先のことばかり考える国で日本は大丈夫なのだろうか。
地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。
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