22年の第一次所得収支は+35兆1857億円と過去最大を記録したが、貿易・サービス収支の赤字も▲21兆1638億円と過去最大を更新した結果、経常黒字は+11兆5466億円にとどまった。+11兆円以上の経常黒字は世界的に見れば相応に大きいものではある。しかし、上述したように、そもそも約50兆円に及ぶ第一次所得収支の受取総額のうち半分(約25兆円)が円転されていない可能性がある。
第一次所得収支黒字は当然、額面通りの円買いを誘発しないだろう。経常黒字が+11兆円しかないのに、「25兆円分は円買いにならない」という事実を差し引けば、経常収支は黒字でも本当の需給は円売りの方が多いという状況は十分考えられる。
現状打開へ直面する変化に注視を
なお、こうして脆弱性を増す経常収支の状況を良い方向に変えていくにはどうしたら良いのか。それは別途紙幅が必要な大きなテーマではあるが、例えば貿易収支改善を企図するならば輸出増のために国内への製造業回帰や対内直接投資の喚起が求められるし、輸入減のためには原発の再稼働が求められるだろう。
もしくは近年赤字が拡がっているサービス収支はインバウンドの呼び込みで旅行収支黒字を増やしたり、研究開発拠点の誘致で知的財産権等使用料の黒字部分を増やしたりすることで改善させることができる。ほかにも多くの争点はあるだろう。しかし、過去10年余りで日本の経常収支の形が変わってきたように、今後良い方向に変わっていくとしても一朝一夕にはいくまい。現状では、日本が今直面している変化を理解する必要がある。
もちろん、為替の需給環境について、本当の正解を把握するのは不可能である。しかし、経常収支の符号(大きな黒字)だけを見て、円相場の頑健性を語るのが非常に難しい時代に入っているのは間違いないと筆者は考えている。そう考えなければ+11兆円も経常黒字を抱えながら、対ドルで▲30%近くも下落した22年の相場つきは解せない。
日本がこれまでよりも「外貨が入ってこない国」になっている事実は当然、「今までもよりも円安になりやすい(円高になりにくい)国」になっていることを意味している。為替見通しを検討する上で米国の雇用統計や総合指数(CPI)、これらを受けたFRBの利上げ回数や幅などが最も注目されやすいものの、それと同じくらいの目線を持って需給環境の変遷を注視すべき時代になってきているのではないだろうか。