2024年5月6日(月)

世界の記述

2023年4月21日

外遊評価と政党支持率のいびつな関係性

 蔡総統と馬前総統の外遊に対する台湾世論の評価は、今のところ蔡総統に軍配が上がっている。超党派の非営利団体である台湾民意基金会が4月9日~11日に行った世論調査によると、「蔡英文総統が中米の友好国を訪問し、経由地米国への立ち寄った際、マッカーシー下院議長と会見した。このことに賛成するか」と問うたのに対し「賛成」が61%、「反対」が21.8%で、賛成が圧倒的に多かった。

 同じ4月9日~11日に行った世論調査で「馬前総統が最近中国を訪れて祖先の墓参を行い、中国政府の厚遇を受けた。馬氏の行動を肯定するか」と尋ねたのに対し「肯定する」が39.2%、「肯定しない」が43.7%と評価し、否定派が多数を占めた。

 台湾メディアの三立新聞網によれば、民間シンクタンクで、与党寄りとみられている中華亜太菁英交流協会が4月10~11日に行った世論調査では、蔡総統の訪米を47.9%が支持する一方、馬前総統の訪中を評価する声は25%にとどまった。

 両人の外遊に対する評価は、政党の支持率と必ずしも連動していない。台湾民意基金会が、蔡総統と馬前総統の帰国後の9~11日に行った世論調査の結果によると、政党支持率は、与党の民進党が28.6%、野党の国民党が25.9%、第二野党の台湾民衆党が15%だった。

 3月の調査時の支持率に比べ、国民党は「底打ち」して8ポイントも上昇した。民進党が0.2ポイント下降、台湾民衆党が横ばいで、国民党が一人勝ちした。同基金会によると、国民党は2022年11月の統一地方選挙で大勝した後の約5カ月間、支持率が激しく上下している。

 台湾民意基金会によれば、国民党の支持率が4月に「V字回復」したのは、馬前総統が中国を訪問して「中華民国」、「前総統」を連発したことで、歴史ある「国民党」に注目が集まったことが要因の一つ。また、電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手の鴻海精密工業の創業者である郭台銘氏と、大衆的な人気が高い新北市長の侯友宜氏が、それぞれ24年の総統選へ国民党から立候補することに立場を鮮明にしたことも一因という。

 そもそも国民党には、馬英九氏の「親中抗日」の旅が、24年の台湾総統選挙で得票増につながるとの胸算用があったようだ。

 民進党の元立法委員(議員)で、著名な政治評論家の郭正亮氏は、自身のユーチューブ番組「亮剣台湾」の中で、中台関係で台湾人は「統一拒否」、「戦争回避」、「交流希望」、の三派に分かれるため、国民党は馬氏の訪中により「統一拒否」派以外の二派からの支持が得られ全体として総統選の得票が増すことを期待していたと指摘した。

 郭氏は一方で、蔡総統の今回の訪米が失敗だったとし、会談相手が反中タカ派に限られ、本来望んでいたバイデン政権高官との会談を果たせなかった点を理由に挙げた。

親中派の同行学生も「統一は時期尚早」

 馬前総統の訪中には、学生30人も同行した。米政府系放送局ラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、彼らは台湾で親中派とみられがちだが、いずれも台湾の民主主義体制に誇りを持ち、中台統一は「時期尚早」と口を揃えた。

 うち台湾・清華大学3年生の周永秦さんは「台湾人は自身の自由民主主義制度に自信を持つべき。われわれは権威主義から自由民主主義へ移行したことはわれわれの誇りだ」と述べた。中台の統一については「中国にも学ぶところは多いが、統一すべきかとなると、今のところ保留だ」と述べた。

 政治大の邱泰達さんは「中国人の中華民族復興への願望は強烈で、自分もその一部だ。祖先があちらから来たことは否定できない」と述べた。ただ、中台統一については「まだ早すぎる。中華人民共和国に住みたいかと聞かれると、家族も友人も台湾におり、台湾にいる方がいい」と語った。

 同行の学生について台湾では、12日間の旅行中、中国によるシンパ獲得活動「統一戦線工作(統戦)」で取り込まれるのではないかとの懸念もあった。周さんは「12日ぐらいでそんなに簡単にはやられない。同行の学生はみな、独立の思考能力を持っている」と述べた。

 台湾に自由と民主主義がある限り、中国による統一は容易ではなさそうだ。

   
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