2024年7月23日(火)

近現代史ブックレビュー

2023年5月18日

幾度も入牢した思想家

 活動自体は小さなものであったが反響を呼び、内務省から治安に妨害ありとして結社禁止を命じられ入牢。その後、曲折を経て郷里大和五條に戻り、日本に亡命した朝鮮開化派の金玉均の支援を始めた。それは85年、大井憲太郎らとの大阪事件になり、長崎で逮捕される。

 出獄後、今度は条約改正問題で出版条例違反や官吏侮辱罪等に問われ入牢したが、奈良に戻り92年第2回総選挙に立候補当選している(第3回総選挙では立候補しなかった)。

 そして90年に『大東合邦論』を発表した。「わが日韓、よろしく先に合して清国と合縦し、もって異種人の侮を禦(ふせ)ぐべし」という主張であった。

 その後、社会主義活動を活発化させたりもしたが、1900年代に入ると中国朝鮮との関係が活発化。とくに大韓帝国で日韓合邦を目指す一進会が結成され、その会長李容九が『大東合邦論』に注目したので樽井は京城に滞在するなど関係は深まった。実際の日韓併合と樽井らは一致するわけではなかったが、そのあたりはあまり自覚的ではなかったらしい。

 最晩年は、17年に五條での明治維新発祥記念銅標建設を計画するなどして、22年生涯を閉じる。

 最後に難解な樽井の思想分析が行われており、『大東合邦論』については日朝両国が現場のまま「合邦」するのではなく、あるべき国家へ変わりながら「合邦」を目指すべきことが記されていたことを重要視すべきではないかと指摘されている。

 正確な実証により研究を確実に前進させる著者らしい優れた成果であった。

 なお、著者は、樽井の思想の検討にあたり、国内については国家社会主義、国外との関連ではアジア主義が現れ、両者が結び付く中で国内国外双方の格差是正を目指す思想=インペリアル・デモクラシーを提起しており興味深いが、評者が提起した昭和維新運動の特質と同じ種類のもののようにも思われ(拙著『二・二六事件と青年将校』吉川弘文館61頁)、教えを請いたいところである。

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Wedge 2023年6月号より
瀕死の林業
瀕死の林業

「花粉症は多くの国民を悩ませ続けている社会問題(中略)国民に解決に向けた道筋を示したい」

 岸田文雄首相は4月14日に行われた第1回花粉症に関する関係閣僚会議に出席し、こう述べた。スギの伐採加速化も掲げられ、安堵した読者もいたかもしれない。

 だが、日本の林業(林政)はこうした政治発言に左右されてきた歴史と言っても過言ではない。

 国は今、こう考えているようだ。

〈戦後に植林されたスギやヒノキの人工林は伐り時を迎えている。森林資源を活用すれば、林業は成長産業となり、その結果、森林の公益的機能も維持される〉

「林業の成長産業化」路線である。カーボンニュートラルの潮流がこれに拍車をかける。木材利用が推奨され、次々に高層木造建築の施工計画が立ち上がり、木材生産量や自給率など、統計上の数字は年々上昇・改善しているといえる。

 だが、現場の捉え方は全く違う。

 国が金科玉条のごとく「林業の成長産業化」路線を掲げた結果、市場では供給過多の状況が続き、木材価格の低下に歯止めがかからないからだ。その結果、森林所有者である山元には利益が還元されず、伐採跡地の再造林は3割しか進んでいない。今まさに、日本の林業は“瀕死”の状況にある。

 これらを生み出している要因の一つとして、さまざまな形で支給される総額3000億円近くの補助金の活用方法についても今後再検討が必要だろう。補助金獲得が目的化するというモラルハザードが起こりやすいからだ。

 さらに日本は、目先の「成長」を追い求めすぎるあまり、「持続可能な森林管理」の観点からも、世界的な潮流に逆行していると言わざるを得ない。まさに「木を見て森を見ず」の林政ではないか。

 一方で、希望もある。現場を歩くと、森林所有者や森林組合、製材加工業者など、“現場発”の新たな取り組みを始める頼もしい改革者たちの存在があるからだ。

 瀕死の林業、再生へ─。その処方箋を示そう。


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