2024年11月22日(金)

有機農家対談 「ぼくたちの農業」

2013年8月1日

 地元のおばちゃんが「最近は遠くからの客が増えて、なかなか買えなくてイヤ」とか言いながら買っていく。あとは自分の家の前の無人直売所とか、地元のスーパーに卸す。ドキドキするようなモノとかお取り寄せではなくて、デイリーに使う野菜としてそれなりにバラエティもあるものが売れていくというのは、都市型の農業としてはひとつの理想形だと思うんですよ。直売はそっちに完全に特化して、あとは飲食に軸足を置いてやっていくのもありかなと思う。

久松農園のナス畑にて。栽培のこと、土壌のこと、品種のこと……二人の話は尽きない。

小川:ちょっと聞いたのは、先輩農家が自分で作れるようになった作物は後輩にレクチャーして、譲ってしまうとか。

久松:ヨコの連携が取れているからこそできることですよね。チームの部分と、個人の生産者としてヘンなものを作りたいという変態欲求も満たされるわけよね。(笑)。それがそのままお客さんにとっての価値になっている。

 彼らのやり方は、音楽でいえばポップミュージックではなくて、ジャズなんですよ。演奏技術そのものの向上が、そのまま聴き手にとっての価値になる。品種や栽培技術に特化した農業は、もちろんビッグビジネスにはならないけど、そのおかげで地域外の人が参入できない形で価値が守られている。そこがいいなと思うんですよね。

 ぼく自身は、もう少し広く浅くアピールするポップミュージックのような方向性を目指したいとは思っています。でも彼らのやりかたも、日本や世界のシーンとは関係なく、彼らを支持してくれる人のニーズと合致していればいいのであって、ひとつのあり方じゃないかな。

 地元のジャズクラブに通い続けるお客さんたちが、喜んでくれる演奏をし続けることが大事なのであって、世界一のギタリストを目指すわけではない。小川さんも日本一有名な農家になりたいとは思っていないでしょ?

小川:思っていないですね。ムシキングにはなりたいと思っていますけど(笑)。もう死語かと思っていましたけど、久しぶりに久松さんにFacebookでそう書かれたので。

久松:自分で名乗っている「ビオバウアー(Bio Bauer : 「生き物の建築家」の意)」とわざわざ呼んであげるのはシャクだからねえ(笑)。

小川幸夫(おがわ・ゆきお)
1974年千葉県生まれ。ファーム小川代表。自称ビオバウアー、人呼んで農業界のムシキング。慶應大学経済学部卒業後、農業機械メーカーを経て、柏市にある実家の農場を継いで就農。約1.2haの畑でトマトやナス、イチゴやブルーベリーなど100種類以上の品目を栽培する。新しい品種、環境負荷の小さな栽培法を求めて農場で実験と実践を繰り返す研究家。

久松達央(ひさまつ・たつおう)
1970年茨城県生まれ。久松農園(http://hisamatsufarm.com/)代表。慶応大学経済学部卒業後、帝人に入社。98年に退社後、1年間の農業研修を経て99年に土浦市で独立就農。年間50品目以上の旬の有機野菜を栽培し、会員消費者と都内の飲食店に直接販売している。ビデオブログやSNSを駆使しての情報発信や講演活動も旺盛に行う。9月1中旬に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)を刊行予定。

第3回へ続く


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