2024年11月27日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年5月23日

 5月中にもウクライナの反転攻勢が予想される中、こういう内部対立はプーチンにとっては困ったことであろう。バフムトからワグネルが撤退し、ウクライナ軍がバフムトを制圧すれば、今後の戦争の行方にも影響があるだろう。

 ロシアの正規軍がバフムトを攻略できるかには大きな疑問がある。また、チェチェンの指導者カディロフは、ワグネルがバフムトを撤退するとすれば、自分の戦闘員がそこに向かい、バフムトを攻略する用意があると言っているが、彼らがワグネル軍撤退後の穴を埋められるとも思えない。

 ロシアのペシュコフ大統領府報道官は、プリゴジンの声明は承知していると言いつつ、コメントは控えるとしている。これは、クレムリンがこの対立に明確な姿勢を打ち出すのを躊躇していることを示している。

違法組織を許容するプーチン

 ワグネルはウクライナ戦争やその他の紛争で活躍してきたが、ロシア法では、連邦法で規定のない軍事組織は違法な存在であり、刑法でも民間軍事組織は違法とされている。プーチンは、ワグネルを違法な存在であることを承知の上で、邪魔になれば違法性を理由にいつでも排除しうると考え、便利に使ってきたのだと思われるが、ワグネルはその存在を確立してきており、取り扱いが極めて難しいものになっている。

 プ-チンはワグネルの存在を認めるなど、違法なことを許容している。ソ連時代、作家ソルゼニーツィンなどに市民権はく奪が科されたが、今のロシア憲法は明示的にこれを禁止している。しかし今、議会ではその刑の復活が憲法改正なしに提案されている。プーチンはロシアを無法行為が許される無法国家にしていると言える。これでは国家統治に支障が出てくるのではないか。

 ウクライナの反転攻勢の結果がどうなるかはまだわからない。しかし、ウクライナ側が善戦する可能性は高いだろう。ただ、いくら善戦しても核保有国のロシアが降伏文書に署名することはなく、領土を奪還した後での休戦が望み得る最善であろう。

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