医療部会の意見書では「施行規則を踏まえた内容」とあり、ほとんどのメディアでは、施行規則と同じ文面が法制化されると報じた。「法律への格上げ」と評価した。
改正案を作成した厚労省医政局に問い合わせると、「法制上の調整をした結果こうなった。文案が変わったように見えるが、趣旨は変えていない。意図的に内容を狭めたつもりもない。これから有識者による会議で検討する新しい施行規則には相談が入るはず」とよく分からない答えが返ってきた。
また、「(後半部分の)『疾病の予防のための措置、その他の医療の提供』という文章の中に、健康管理の相談という内容を含めている」とも説明する。予防と相談は異なるはず。この説明は納得しがたい。
医師会への配慮か?
健康相談をかかりつけ医機能に含めているのは厚労省の施行規則だけではない。13年8月に日本医師会と4病院団体協議会によるかかりつけ医についての合同提言でも、健康相談を打ち出している。
「かかりつけ医は、日常行う診療のほかに、地域住民との信頼関係を構築し、健康相談、健診・がん検診、 母子保健、学校保健、産業保健、地域保健等の地域における医療を取り巻く社会的活動、行政活動 に積極的に参加する」という文言に健康相談がある。
厚労省が健康相談を盛り込まなかった理由として、「よく眠れない、だるいなどの症状にもひとつひとつ対応しなければならなくなり面倒だから」「診療報酬の対象とならないから」などの声が聞かれる。
加えて、厚労省には15年前の事件によるトラウマがあるのかもしれない。後期高齢者終末期相談支援料を巡る騒動である。
75歳以上の後期高齢者とその家族に対して、終末期を迎えた時の延命処置など医療対応について事前に医師や看護師が相談に乗る。その内容を文書化すると、患者の死亡時に2000円の診療報酬が得られるという制度だ。
相談は1時間以上続けることが条件だ。報酬は同一人に一回限り。
08年4月から始まったが、わずか3カ月で凍結され、その後撤廃された。「高齢者に早期の死を促すことになる」「医療費の削減意図が強過ぎる」などの野党やメディアからの批判に応えられなかったためだ。その議論の中で、相談という漠然とした内容について疑問の声が挙がった。
患者としては、相談は一回だけでなく、同じ医療者に続けて会うのが自然だろう。だが報酬は一回分だけだ。こうした問題点が今回の健康相談にも同様に及んでくる。
相談を重ねるということは、事実上、特定患者の登録につながる。だが、かかりつけ医による患者の登録制には日本医師会は猛反対している。金科玉条のフリーアクセスの消失につながり、収入減をもたらしかない。
日本医師会の顔色を窺いながらの政策を強いられる霞が関にとって、相談が孕む問題は多い。触らぬ神に祟り無し、寝た子を起こすな、と忖度したのかもしれない。
また、健康相談には一見健康な人も対象にせざるを得ない。ところが、今回定めたかかりつけ医の役割として、かかりつけ医と患者の関係を示す書面交付制度を設け、その対象を「継続的な医学管理が必要な患者」に限定している。
つまり慢性疾患を抱えた高齢者を想定しており、健康な人は書面交付の対象外となる。健康な人からの相談を外しておかないと辻褄が合わなくなる、と判断したのかもしれない。